私を励ますお客様の言葉

第01回 1997年度 受賞作品
入賞作品
作者名:原田和枝
所属企業:㈱神戸凮月堂

記事(紹介文)

 
 私が洋菓子販売に従事してまる6年が経過した。その間に、私には販売以外に続けてきたことがある。それは色紙に、四季折々の風物を描いて詩をつけて陳列ケースの上に飾ることである。気候風土に恵まれ、それに育くまれてきた日本や日本人の心を表したものが売場に欲しかったからだ。それは同時に、肉の糧を得ることに追われ、人や自然の美しい風景に鈍感になることへの戒めであり、つい落ち込みがちになる自分への励ましでもあった。
 5年ほど前である。あるお客様から配送を承った。のし内容は仏事の志である。伝票を書いていただいている間の言葉のやりとりから、その方が小児がんで我が子を亡くされたことを知った私は、目頭が熱くなり、どうおなぐさめしてよいものやら戸惑い、絶句してしまった。ただただ深々とおじぎしてお見送りするのが精一杯であった。
 その夜、帰宅してからもその方のことが頭から離れず、気づいた時にはペンを執っていた。私には2歳になる息子がおり、その子が生後6カ月の時に夫と離婚したため今、生活の基盤を築いて子供を元気に育てようと懸命に働いていることを手紙に書いた。「あなたと私の苦しみはまるで違うものかもしれないけれど、母であることは同じです。互いにくじけずにゆきましょう」と手紙をくくったと思う。
 それから2、3日して、その方はわざわざ売場に来てくださり、「お手紙ありがとう。うれしくて涙が出ました。これ息子さんにあげて!」と白い小猫のぬいぐるみを手渡してくださった。互いの目はうるんでいたけれど、はっきりと何かが通じた感覚があった。それからずっと、その方との心のお付き合いは続いている。「私、原田さんの絵を目当てに来るの。たとえそこにあなたの姿がなくても絵があると、原田さんはここでまだ頑張っているって安心するの」とおっしゃってくださる山下るり子さん、あなたのその言葉がまた私を励ましてくれます。24色の色鉛筆で、私の世界をこれからも描き続けたいと思う。この場が、単に金銭と物の交換の場ではなく、心と心の交歓の場であることを祈りながら…。

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