年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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二人のスタートライン

第09回 2005年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)

 
 「少々お待ち下さいませ…」。初日だったこの日、私は何も分からず、お客様の質問に対し、この言葉しか返すことができなくて、他のスタッフに確認をとってからお答えするという状態になってしまいました。すると、そんな様子を見た1人のお客様が「どうせ他の人に聞かないと分からないんでしょ、だったらもういいわ!」と言い、去って行かれました。私は、いくら初日とはいえ、私もお客様にとって同じ店員なのに、お客様に嫌な思いをさせてしまった…とすごく落ち込んでしまい、一番大切な〝笑顔〟を失ってしまいました。
 するとしばらくして、「スミマセン…」と後ろから小さな声がしました。振り向くと、シミのついたトレーナーに糸のほどけたパンツ姿の女性が、下を向き、どこか元気のないご様子で立っていらっしゃいました。私は少し戸惑いながら、「いかがなさいましたか?」と聞くと、その方は「キレイナ服ヲ探シテイマス…」とおっしゃいました。
 彼女は中国から日本で働くために来たそうで、今日は面接の結果を聞きに行ったのだそうです。結果は合格で、明日から働くことになったそうです。私は「おめでとうございます!」と言いましたが、彼女はあまり嬉しくなさそうで、逆に落ち込んでいるように見えました。すると「そんな汚い格好で働くな。キレイな服を着て来い」と言われ、落ち込んでいるのだと教えてくれました。
 それを知った私は、おめでたいことなのに元気がない姿が悲しくて、どうしても彼女に笑顔で新しいスタートを切って欲しい!と思い、必死で彼女に似合う服を探しました。ワンピースやスーツなど、私の選ぶ服を彼女は次々に試着してくれました。鏡に映る自分の姿を見て、髪を整えながら「カワイイ」と少し照れた様子で言ってくれました。彼女はだんだん笑顔になっていき、私の選んだ服を大変気に入ってくれました。その姿を見た私は、本当にうれしくて涙が出そうになりました。
 お見送りの際、思い切って「何のお仕事をされるんですか?」と聞いてみました。すると彼女は「明日カラ中国語ノ先生ニナリマス! ズット夢デシタ!」と、とても元気よく、そしてとても嬉しそうに言ってくれました。思わず私は「実は私も今日からこの店で働き出したんです。お互い頑張りましょうね!」と言いました。
 そして、もう一度「本当におめでとうございます!」と言いました。すると彼女は、すごく素敵な笑顔を見せてくれました。そして「アリガトウ」と言ってくれました。私も心を込めて「ありがとうございます」と言いました。
彼女に元気をもらった私は、気が付けばいつの間にか笑顔に戻っていました。戻っていたというより、このとき初めて本当の笑顔になっていたんだと思います。

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