年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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幸せの輪

第09回 2005年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:フルーツ販売店勤務

記事(紹介文)

 
 「おはようございます。いらっしゃいませ」。「どうぞご覧くださいませ」。
その日もこうして、1日が始まりました。開店と同時に何人かのお客様がいらっしゃって、門送りのたびに何度もすれ違う1人のお客様がいらっしゃいました。
 ずいぶんと時間が経ち、<そろそろお決まりになったかしら?>と思い、「お決まりですか?」とお声かけをしました。すると、そのお客様は私が立っている方向と逆の方を向いて「はい」とおっしゃいました。<もしかして目がお悪いのかな?>と思い「こちらのメロンは、真ん中のおサイズでございます」と申し上げると、「メロンもサイズが何サイズかあるのかしら? 私は目が悪くてあまりよくわからなくて…。本当なら、今の旬のものを差し上げたいのだけれど、自分がわからないものをお贈りするわけにはいかないでしょ?」とおっしゃいました。
 私はその時、なんとかいろいろな旬のフルーツを香りや感触で知っていただこうと思い、お席におかけ頂いて、ひとつひとつお持ちしようと思いました。「お席にいくつかフルーツをお持ち致しますので、ただ今ご案内いたします」。と申し上げると、「掴まってもいいかしら? 床が光っているようでよく見えないもので」とおっしゃいました。腕にしっかり掴まったいただき、メロンコーナーからお席までご一緒致しました。
 メロンコーナーからお席までは、10m位の距離ですが、目のご不自由な方にとって大変歩き辛い床と、長い距離ということをこの時初めて痛感しました。「少し休ませて下さる?」というお客様の言葉に、私は普段歩きなれている場所だからいいけれど、お客様にとってみれば大変な距離ということで少し悪いことをしてしまったと反省しました。
 お席についてからは、洋梨や柿、りんご等をお持ちして、触っていただいたり、香りを楽しんでいただいて、お色やお味を説明して差し上げました。「これはいい香りね。これなら喜んで頂けそうね」とおっしゃって下さり、メロンではなく、いろいろな旬のフルーツの詰合せにお決めになりました。配達のご住所等をこちらでお書きして、お会計の際に、「お嬢さん、私の鞄の右ポケットにお財布があるから、そこからその金額をとってくださる?」とおっしゃるのです。今日お会いしたばかりの私にと、とても驚きました。さらに私が、「では、1万円札が1枚と、500円玉が…」と申し上げると、「いいのよ、そんなことしなくても。お譲さんを信じているもの」とおっしゃって下さいました。
 そうしてまた、お席からメロンコーナーへとお送りする時となりました。一歩一歩ご一緒させていただいている間に、「何から何まで本当に親切にして下さってありがとう。あなたが一生懸命教えて下さったフルーツは、相手の方もきっと喜んで下さるわ。またお願いしに来るわね」とおっしゃって下さいました。
 そのお客様との時間は、いつも以上に緊張しましたし、目に見えているものをいかに伝えるかということの難しさを学びました。
今日も売場には様々なお客様がお見えになります。あの日のお客様のよう「また来るわ」とおっしゃって頂けるよう、これからも一つひとつの出会いを大切に、ご来店されたお客様も、また、それを贈られたお客様も喜んでいただける様な幸せの輪を広げるギフトをお作りしたいと思います。

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