年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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お姫様になった美紀ちゃん

第09回 2005年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:子供服販売店勤務

記事(紹介文)

 
 現代では、インターネット販売、テレビショッピング、カタログによる通信販売が急速に発達し、家から一歩も出ることなく、いろいろなものを手に入れることができる。
 物を買うのは人間である。人間には、視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚がある。見て、触って、匂いをかいで、聞いて、味わって購入を決める事が理想だ。インターネットやカタログ販売では、五感を通して買い物をするのは不可能である。質問がしたい時、希望を伝えたい時、迷った時、その時こそが販売員の出番である。
 販売員はより早くお客様の心をキャッチし、お客様のペースに合わせてコミュニケーションをとらなければならない。「いらっしゃいませ」と声をかけた時のお客様の反応、目の動きを観察し、その瞬間に、お客様が接客を好むか好まないかを感じとる。お客様から声がかかれば接客は成功する。
 私の勤務するお店のお客様のほとんどはお母様、おばあ様、そしてお子様である。特にお子様とは、常に新鮮な触れ合いがある。美紀ちゃん、3歳。来月の結婚式に出席のためのお洋服を探しに来られた。始めはお母様の陰に隠れて恥ずかしそうにしていた。「こんにちは」と声をかけても隠れてしまう。
 ジョーゼットのフリル付スカートをお母様がお決めになり、美紀ちゃんも気に入っているご様子。できればご試着していただき、スカートに合わせて、ブラウスやカーディガン、靴を選んで差し上げたかった。
 「美紀ちゃん、お姫様になってみる?」。私は思い切って話しかけてみた。美紀ちゃんは無言でうなずいた。私は遠慮がちにご試着のお手伝いをした。私のお薦めのコーディネートに変身した鏡の前の美紀ちゃんは、急に笑顔になった。
 「今度私のお家に遊びに来て。お家にはパパと赤ちゃんの奈美ちゃんもいるよ。かわいいお布団、見せてあげる」。たて続けにおしゃべりが始まった。販売員の私に心を開いてくれたのだ。恥ずかしがりやの美紀ちゃんがお姫様になったのだ。美紀ちゃんの明るさ、美紀ちゃんのご家庭の温かさが私の心に届いた。今日の夜、パパと妹の奈美ちゃんの前で美紀ちゃんは再び、お姫様になるのだろう。
 人間は服装が変わるといつもと違う自分になれる気がする。外見が変わると心まで変われると思ったりする。オテンバな女の子がドレスを着てお姫様になったり、ヤンチャな男の子がスーツを着て紳士になったり、そんなときめきや夢を子供たちに味わってもらうお手伝いが出来ることはすばらしいと思う。
 お客様が笑顔で帰られることが私の接客の目標である。お会計の後、お客様から「ありがとう」の言葉をかけていただけた時は本当に嬉しく思う。お客様にときめきや夢を味わっていただき、私自身もお客様の喜びをいただける販売員という仕事に、これからも誇りを持ち続けていきたい。

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