年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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運動会

第09回 2005年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:眼鏡販売店勤務

記事(紹介文)

 「すいませーん」。
とてもかわいらしい声で、店内に入って来た女の子は、幼稚園の年長さんか、小学校1年生ぐらいでしょうか。少し不安そうな表情で、掛けていたメガネをはずすと、「これ。直して下さい」と私に手渡しました。お預かりしたメガネを見ると、幅がかなり広がってしまっていて、小さなお顔の女の子にはゆるすぎて、すぐにズレ落ちてしまうようになっていました。
 私が、すぐに直せるので少し待っていて欲しいことを伝えると、女の子は少し安心した様子でした。調整が終わったメガネの掛け具合を確認してもらおうと、女の子にメガネを手渡すと、まずはまっすぐ前を向いた状態を確認。次に、下を向いた状態を確認。今度はその場で何回も、ジャンプをしてみたり、頭を左右に振ってみたりと、色々な動きをして、メガネの掛け具合を確認していました。そして最後に、一緒に来店されていたお母さんに「うん」とうなずいてみせました。
 その様子をずっと見ていた私は、調整がうまくできていたのか少し気になり、女の子に掛け具合がどうかきいてみました。すると「明日がんばれるっ!」という返事が返ってきました。側にいたお母さんが、明日が運動会だ私に教えてくれました。メガネがゆるくてズレ落ちてしまうと運動会でがんばれないから。というのが、女の子が来店された理由だったのです。それで、いろいろな動きをしてみて女の子なりに掛け具合を確認していたのです。
 やっと、女の子の返事の意味がわかった私は、女の子にもう一度、「明日の運動会、このメガネでがんばれそうかな?」と聞いてみました。女の子は元気な声で、「これで、運動会がんばれるっ、メガネ直してくれてありがとう」と笑顔で言ってくれました。
 ほんの少しですが、女の子のために自分が役に立てたと思うと充実感と同時になんだか優しい気持ちになれました。お母さんと2人で帰っていく後ろ姿を見送りながら、「こちらこそ、ありがとう。運動会、がんばってね」と心の中で声をかけていたのでした。

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