年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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2(ツー)レバの女

第01回 1997年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)

 
 原宿の駅から表参道の長い坂道を登って行くと、ふと空気が変わる瞬間がある。それまでのまとわりつくような熱気は消え、洗練された雰囲気がただよう。そこは南青山ブランドストリート。2年前、私はそこで働いていた。それも、南青山一入りづらいと言われる、イッセイミヤケの路面店、(「ヨウジヤマモトと並んで」という声もある)にいたのである。
 ガラス張りの中、平均身長168センチという先輩お姉さま方に囲まれ、場違いのようにちんまりと立っている、ずんぐりむっくりの私。もうこっけいそのもの。でも、そんなおぼこ娘の私にも、得意なお客様はいた。
 一人目は、外人のお客様。好奇心のかたまりの私は、恐いもの見たさから外人さんと話すのが大好き。もちろん、決して英語が得意とか、しゃべれるというわけではない。外人さんは目と目が合うとスマイル。日本人のように目をそむけたり、恥ずかしがって下を向いたりしない。だから私もスマイル。言ってることは、「レッド イズ ベスト」「アイ ライク イット」など、まるっきりの中学英語。でもスマイル。わからなくてもスマイル。お客様も「変だけど、陽気な日本人」って感じで、気に入ってくれるらしい。私は、そう、〝バイリンガル気どり〟って気分なのだ。
 そして2人目は得意中の得意、中高年の有閑倶楽部の奥様方である。このお客様、マヌカンを困らせる三(スリー)レバと言うものを持っている。それは、「あなたのように、若けレバ」「あなたのように、細けレバ」「あなたのように、背が高けレバ」の三レバである。(またの名を「オバサン・レバサン」ともいう)。そして、奥様方は指をくわえて逃げていく。しかし私の場合、「あら、若いけど私と同じような体形ね。この子が着こなせるなら、私も着れそうね」「あら、私もなかなか似合うじゃない」というふうになる。そう、私は「細けレバ」「背が高けレバ」がそろったニ(ツー)レバの女なのである。
 そんな私が強い味方に見えるのか、「娘が言うことを聞かないのよ」なんて人生相談されることもあった。そんなときは、好奇心も手伝って、「娘さんを信じて、そっとしておくのも、いいんじゃないでしょうか」なんて”みのもんた”してしまう。そうすれば、「お嬢さま」の目は、信頼感に満ちあふれ「若いのに、しっかりしているわ」となる。
 埼玉にひきこもって、もう2年。夫と子供の3人で平和な日々なのだが、あの三レバの奥様方、また店のウインドーの前で指をくわえているのだろうか。

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