年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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ハズレくじの宿題

第09回 2005年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:書籍販売店勤務

記事(紹介文)

 
 「この件にあなたは直接は関係していないけど、あなたには宿題を与えるわ。ハズレくじを引いたと思ってどうにか見つけてちょうだい」。
 入荷予定日を電話で確認されていたのにもかかわらず、ご案内していた納期を守ることができずクレーム応対を迫られた。
外出していた上司に頼み、在庫のある支店からすぐに商品を持ってきてもらえることにはなったが、商品が到着するまでに30分かかる…。
そんなわけでカウンター越しに一対一で向かい合い、説教を受けることに。会社が肥大化してくると、あるいは仕事の分業化が進むと連絡ミスが多発する。マニュアルは言葉ばかりで中身が伴っていないといった一般的な注意を受けて、そして怒りつかれたお客様からのひとことが冒頭の一文だった。
 私は書店で働いている。お客様から宿題として出された5冊がすでに絶版になっていることは簡単に調べが付いてしまった。お客様もそれは承知の上でのようだ。そこでまずお客様に提案。私に出した宿題なら、この宿題についてはこの店のことは忘れて私とだけの約束にしてはいただけないか、と。叱られるかもと思ったが、お客様は私の提案に大いに興味を惹かれたらしい。
 いろいろ話し合った結果、納期は無期限で、古本屋巡りをして入手できたら交換し合った携帯の番号で連絡をする、ということになった。この条件で完全にこちらに非のある事故が収まるのならラッキーだ。おたがい笑って雑談ができるようになってきた頃、上司到着。商品を渡し、その日はお帰りいただいた。
 つい最近仕事仲間から、外商部では半分サービスで入手困難な商品を古書店からどうにか調達してくることもある、という話を聞いていて、それはちょっとやりすぎじゃないの? そこまでしなくても…なんて思ってばかり。まさかこんなに早く断れない状況がやってくるとは…。
 元々休みの日に古本屋に行くこともあるので、この日以来宿題リストを持って出歩くようになった。探しはじめて2週間目で、2冊発見。案外見つからない。思ったよりもレアなものだったようだ。本意ではあったけど、とりあえずと思い2冊だけでも入荷連絡をすると、意外にも大感激していただけた。そもそも返事を期待していなかったのかもしれない。
 残りはもうしばらく待ってください。私の言葉にお客様は、「そこまでしていただかなくても、もう十分よくしてもらったわ」と言ってくれて、そのとき全てが終わった感じがした。
 今、そのお客様は何事もなかったようにたまに来店されてはお気に入りの作家の小説を買ってゆく。私のポケットに残りの3冊の書名を記したメモがいまだに残っているなんて、思ってもみないことかもしれない。

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