一人のために

第10回 2006年度 受賞作品
最優秀作品
作者名:竹内かんな
所属企業:㈱オカダヤ 新宿本店

記事(紹介文)


 ある時、若い女性のお客様が壊れたピアスを直したいとご来店されました。大事そうに取り出したピアスは、チェーンの下にひとつ石が付いた可愛らしいデザインで、片方のチェーンが切れていました。お客様にはアクセサリー作りの経験がなく、自分に修理できるだろうか…と不安そうだったので、私が修理用のパーツをすべて揃えてお手伝いしながら、お店で直していくことになりました。
 私が説明を終え、お客様が作業を始めようとピアスを手に取った瞬間、ピアスの石が手から転がり落ちました。石はそのまま壁際の棚の下に入り込んでしまいました。棚のすぐ下にあるだろうと思いのぞいて見ましたが見える範囲にはありませんでした。
 慌てた私と彼女は一緒にしゃがみこんで手探りで探しはじめました。先輩の1人が困っている様子に気づき、すぐに懐中電灯を持ってきてくれました。そして明かりで照らしながら長い棒を使って15分以上探しましたが、なぜかどこにも見つかりません。彼女は一度はあきらめ、店のビーズで間に合わせようとしましたが、失くした石は珍しいものだったため、残念ながら似た商品がありませんでした。しかし彼女の「人からもらったものなのでどうしても見つけたい」という言葉を聞き、とても大切なものだとわかったので、再び探すことに決めました。
 確かにその棚の下に入ったのに、結局見つけることはできず、私は彼女の連絡先を伺って「見つかったら連絡致しますので」と言うことしかできませんでした。彼女は「すみません、お手数おかけして」と何度も謝りながら帰っていきました。私はそれがずっと気になっていました。
 その日の夜、先輩からあの石が入り込んだ場所は壁の向こうに窓があるため、棚と壁をどけるとさらに奥があるということを聞きました。そんなに奥までいったのだろうか…半信半疑でしたが、どうしても見つけてあげたい、という気持ちがありました。
 閉店後、先輩方にも協力してもらい、壁の向こう側も探してみることにしました。普段は動かすことのない棚をどかし、壁を開くと、奥の方に細い隙間が続いていました。照らしてみると、「あっ! ありました!」。ホコリにまみれてその石がやっと見つかりました。「良かった~!」。本当に嬉しくてすぐに彼女に電話をしました。声を弾ませながら見つかったことを知らせると、とても喜んでくださいました。
 後日、彼女は無事ピアスを修理しに来ました。私は接客中でお話しすることはできなかったけれど、彼女は私に気付くと大変嬉しそうな笑顔で会釈してくれました。その笑顔を見た時、毎日あわただしく過ぎてしまうなかでも一人ひとりのお客様に一生懸命になればこんな笑顔を見ることができるのだ、と心が暖かくなりました。その後彼女はアクセサリー作りを始めたとのことで、時々オカダヤに足を運んでくださるようになりました。
 あの時、仕方ないとあきらめずに探したことが、今につながっているのだなぁと感じます。この時の気持ちを忘れずに、毎日一人ひとりのためを想いながらお客様に接していきたいと思っています。

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