クリスマスケーキ

第10回 2006年度 受賞作品
特別賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:一般

記事(紹介文)


 もうすぐクリスマスがやってくる。クリスマスと聞いて想像するものは、人それぞれだけど、とりあえず私にとってクリスマスケーキは欠かせない。クリスマスケーキは、普段食べるケーキよりも見た目も味も、もちろん値段だって豪華で、誕生日ケーキを食べることがワクワクだとしたら、クリスマスケーキを食べることはドキドキなのだ。私にとってクリスマスケーキは、小さい頃からの特別なもの。
 小学校の低学年ぐらいのクリスマスだったと思う。私は母と一緒にデパートへクリスマスケーキを買いに行った。いわゆるデパ地下、クリスマスとあって、お店もお客さんもみんな幸せそうな雰囲気が今でも鮮明に残っている。そんな中、私は母とケーキ売り場に向かった。大きくて、かわいくて、それでいて綺麗なケーキがガラスケースに上品に並べられている光景は、子供心にとても響いたのだった。どのケーキもとてもおいしそうで、とにかく見とれてしまって、なかなか選ぶ事ができなかった。
 やっとの思いでどのケーキにするか決めた時、私はある事実に気づいた。人がごったがえし次々とお客さんがケーキを買っていくなか、まだ背が低い私は列の一番前にいるとはいえ、お店のお姉さんからは私は見えないということに気づいたのだった。母は私にお金を持たせ、後ろの方で待っている。いったん母の元へ戻ろうかと思ったけど、今日はクリスマス。何か特別な事ができそうだという気になり、自分一人でケーキを買って母の元へ戻ってみせようと小さい私は意気込んだ。
 覚悟を決めて、まずはお姉さんに目で訴えてみる。「お願い! 気付いて!!」と念じてみても、ただでさえクリスマスで混雑していて、他のお客の注文も必死で受けている状態。まるで戦場のように慌しい店内。あの状態で、見えにくい所にいる私に気付けという方が無理な注文だった。しばらく茫然と立ち尽くして、だんだんくじけそうになってきた。でも、目の前にあるキラキラ輝くケーキを見つめていたら、また勇気が湧いてきて、今度は声を出してみようと決意した。と言っても、なんと声をかけていいかわからず、「あの! あの!」としか言いようがなかった。それじゃあ気付いてもらえるわけもなく、もう半ベソかいてる状態だった。せっかくのクリスマスなのに、楽しいクリスマスなのに、何でこんな悲しい思いをしなきゃいけないのかと、今度はちょっと腹が立ってきた。
 その時、救いの声が私に聞こえてきたのだった。お店のお姉さんが私に気付いて声をかけてきてくれたのだった。あの時の嬉しさといったら、クリスマスのせいか、お姉さんが天使に見えたほどだった。優しくどのケーキがいいのかと訊かれた私は、大喜びで「これ下さい!」とどうにか注文することができた。お会計を済ましてしばらく待っていたら、お姉さんがかわいらしい箱に入れたケーキを持ってきてくれた。しかし、その箱をお姉さんが上から渡してくれた瞬間、やってしまった。ちゃんと受け取る事ができず、私は箱を落っことしてしまったのだ。ケーキの入った箱はそのまま下へ落ちて、グシャっとなった。中は見なかったけど、中のケーキも文字通りグシャっとなっていただろう。私は悲しむというより、びっくりしてしまい、その場で固まった。ふと我に返り、どうしようと不安でいっぱいになり始めて、再び泣きそうになった。
 だけど、やっぱり天使だった。お店のお姉さんは天使だったのだ。すぐに私のところまで出てきてくれ、大丈夫だよと優しく声をかけてくれた。そして、新しいケーキを箱につめて渡してくれたのだ。私はすごく嬉しくて、でも申し訳なくって、そして更に照れくさくって、でもお礼を言わなくちゃと思って、「ありがとう」と言ったら、また優しく笑いかけてくれて、本当に嬉しかった。あの時、意地悪な店員だったら、きっとほおっておかれただろうと思う。そしたら、きっと嫌なクリスマスになっていただろうし、クリスマスケーキなんて嫌いになったかもしれない。そう思うと、あの時のお姉さんには心から感謝したいと思う。
 今、私はケーキ屋さんでアルバイトをしてる。まだ始めたばかりだけど、もうすぐクリスマス。天使とまではいかないだろうけど今度は私が、楽しくって素敵なクリスマスをケーキと一緒に贈れるように、そのお手伝いが出来たらいいなと思う。

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