作る喜び

第11回 2007年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:熊坂裕之
所属企業:㈱文明堂東京 武蔵村山工場

記事(紹介文)


 「お客様に焼きたてのカステラを召し上がって頂きたい」と言う新社長の一言からそれは始まりました。本来カステラは、焼き上げ後しっかり熟成させ3日後以降に食べるのが最も美味しいとされています。ですから私達職人にとって焼きたてのカステラをお客様に召しあがって頂くという考えはあまりありませんでした。皆で悩んでいる時に若い職人から「焼きたてが美味しい新しいカステラを作りましょう」という声があがりました。硬くなった私達の頭を和らげてくれた一言でした。
 それから全員が一丸となり新しい配合作りが始まりました。試作と試食を何度も繰り返しやっと納得のいくカステラが完成しました。販売日も決まり、チラシも配布し、準備は全て整いました。そしてついにその日がやって来ました。「はたしてお客様は来てくれるだろうか?」という不安で一杯でした。しかしその不安が喜びに変わるのにあまり時間はかかりませんでした。オープン15分前には工場売店の前に20人程の行列が出来上がっていました。
 さあ、いよいよオープンです。お客様の目の前に、今釜から焼き上がったばかりの湯気の立ったカステラの1枚物(約60cm四方)が運ばれて来ました。「わー大きいっ!」「あっ!湯気が立ってる~」、「いい匂い~!」など一斉にお客様から歓声が上がりました。携帯電話で写真を撮っているお客様もいます。私達が毎日当たり前のように見ているカステラがお客様にとってこんなにも新鮮なものなのか、と驚きました。
 さて、これからカステラ包丁を使ったカットパフォーマンスの始まりです。カットするのはこの道30年のベテラン職人です。1人のお客様の「皆さ~ん、入刃で~す!」と言う掛け声を合図に包丁がカステラに、スーッと吸い込まれると同時に一斉に拍手が沸き起こりました。私達職人とお客様が一つになった瞬間です。試食を口にしたお客様から「美味しい!」というお言葉、「どうすればあなに綺麗に切れるのですか?」 「このカステラの耳の所が一番美味しいんだよな~」 「今日はこのパフォーマンスを見られただけでも来た甲斐があったわ」、など沢山の笑顔を頂き感激で胸が一杯になりました。その後もお客様との会話は途切れることなく続きました。普段、お客様とは直接お会いすることのない私達なので失礼な言葉遣いになってしまった事も多々あったと思いますが、出来る限りの真心で応対いたしました。
 今回の催しで私達職人は、作る喜びに加え新たにお客様に喜んで頂ける喜びを知り、益々仕事に生き甲斐を感じることが出来ました。最後に、お母さんと一緒に来ていた小さな女の子が、私達が焼いたカステラをまるでデコレーションケーキでも持つように両手で大事そうに持ち帰る時の笑顔は私の脳裏から一生消える事はありません。

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