私の販売物語

第01回 1997年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:子供服販売店勤務

記事(紹介文)


 「お買物」するのはとても楽しい。女の人は特にそうだと思うけど、ほしかった物に巡り会った時とか、どれにしようか悩む時とか、選び抜いて決心する時とか、一目見て気に入った物と出会った時とか、家に着いて袋から出す瞬間とか、洋服なら鏡の前ですぐ着たりして、手持ちのワードローブと合わせてみたり、これって本当にハッピーな瞬間だと思う。なのにお店の人の一言や態度でぶち壊されたりした時って誰でも経験あると思う。例えば楽しみにしていた映画を見に行って映画館で痴漢に遭ったりしたら、その映画もその日一日も最悪に大変身しちゃうのと同じ。(ちょっと違う?) 喫茶店のウエイトレスに腹を立てた事ってよくあるでしょう? おしゃべりばかりしてて気づいてくれない。販売員や試着してもアドバイスしてくれなかったりとか、某百貨店の靴売場なんて欲しい靴のサイズが出てくるまで15分もかかっちゃう。「お買物」や「お食事」ってお金を出して物と交換するだけじゃなくて「心」とか「気持」がとても大切なんじゃないかと思う。
 私だって最初からこの「気持」のある販売員だった訳ではない。私は子供服の販売員になったのだけれど、結婚もしてないし子供がいる訳もないのでお客様は未知の世界の人ばかり。だって洗濯だって18才で初めて自分でした位なんだから商品の取扱いなんて全然解らなくて逆に教わる事ばかりで、そりゃあひどい販売員だったに違いない。
 そんな新入社員のある日、お客様からお直しを頼まれた。婦人服ではよくある事だけど子供服ではほとんどお直しはない。頼まれたのはライオンのついたサスペンダーで金具の部分が壊れていた。私はにっこり笑ってこれを引受けた。そのお客様は八丈島在住であと1ヶ月したら取りに来るとの事だった。私はその頼まれたサスペンダーを取り置き商品を入れてある棚に入れた。当たり前だけど直してくれるところに送らないと直る訳はない。けど当時の私はその棚に入れておけば誰かがやってくれると信じていた。先輩に聞くとか店長に聞くとかしないままそれから1ヶ月が過ぎてしまった。もちろんそのサスペンダーは棚の中で自然に直る訳もなく壊れたままで入っている。そしてお客様はそのサスペンダーをクリスマスパーティーの時使用するつもりだったのに直っていないのはどういう事かと私に詰め寄ってきた。何たってお客様は八丈島在住なんだからまた取りに来れる距離ではないし、そのクリスマスパーティーまで10日位になっていたと思う。お客様はものすごく怒っている。私は直立不動の状態。何とか店長がそのパーティーの日まで送るという事に話をまとめてくれた。私は自分の無責任さと他人をとても怒らせてしまった事で屋上でずっと泣いていた。私にとってあのお客様は大勢の中の1人だけど、お客様にとって私は店の代表者でお直しを頼んだたった一人の人物である。その時から私は1人1人のお客様に、たとえ初めてのお客様にも精一杯の心尽くしをしようと思ったのである。
 結局サスペンダーはあっという間にお直しされてお店に送られてきた。そしてまた問題が浮上した。宅急便だと八丈島まで1週間かかるという。それでは間に合わない。危機一髪である。誰かが郵便は? と言ったので私は郵便局へ走った。(電話すればいいのに)郵便局で事情を説明すると速達便だと1日で着くという。さすが郵便局だ。それから私は郵便局が好きになって小包も郵便で出している。間に合うと分かり私はまた走って店へ帰った。用意しておいたライオンの絵の便せんの手紙と一緒にライオンのサスペンダーを包んでまたまた走って郵便局へ向かった。
 そして数日後お客様から着いたという電話がきた。「かわいいお手紙ありがとう。クリスマスパーティーに間に合いました。あなたもこれから頑張ってね。」私は屋上で泣く事になった。(今度は短い時間で済んだけど)
 それから私は初めて店長になったお店で、クリスマスパーティーを開いたり、クリスマスの夜サンタクロースの恰好をして宅配をしたりもした。あの時の子供達はもうすっかり大きくなって中学生や高校生になっている。あの子供達は覚えているだろうか?楽しい小さい頃の思い出として覚えているだろうか?最初に書いた様に楽しい「お買物」と一緒に1人1人の心に残る様な販売ができれば、と思う。最初は自分だけの目標だったけど、次に店長になった時は私のお店はメンバー全員がそんな販売ができる様に、私のお店は「あったかい」感じが伝わる様に、また来たいとお客様に思ってもらえるのが目標になった。現在は全国どの店もそうなる様に、と思っているけどまだ未達成。
お客様の立場に立ってみる事。

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