K様との出会い

第11回 2007年度 受賞作品
入賞作品
作者名:岡 宏子
所属企業:㈱虎屋 心斎橋そごう店

記事(紹介文)


 私が働いているそごう心斎橋本店は、ターミナル百貨店と違い、お客様にお越し頂くには地下鉄に乗らなくてはならない。自分自身も毎日の通勤でその有り難さを改めて感じ、わざわざ来店して良かったと少しでも感じて頂ける接客を心掛けている。
 そんなある日の午後、店内にはあいにくの雨を知らせる音楽が流れた。雨になるとお客様のご来店も少なくなり、販売員のお声がけも広い売場に響き渡るなか、大きなバッグをお持ちの綺麗なキャリアウーマン風のお客様がお越しになった。少し緊張しながら接客を終え、商品をお渡ししようとふとお手元を見ると数冊の本が入った紙袋が目に入った。お仕事用の本なのだろうかと思っていると雨よけカバーが掛かっていなかった。
 「あっ! そちらの袋にも雨よけカバーをお掛け致しましょうか」。本が濡れてしまうと思ったのと同時に声に出していた。「わぁ!嬉しい」。その瞬間の嬉しそうなお顔は今でも忘れられない。そのようなご縁があってK様にはこちらの名前も憶えていただくことが出来た。「私にはこちらの売場が一番買いやすいわ」とまでおっしゃって頂けるようになった。
 先日、出版の御祝にと紅白の干菓子「推古」を選ばれた。紅白の無地熨斗をとの事だったので蝶結びの掛紙で包装を終え、お待ちしていると虎屋最中を追加された。そしてふと「いつも掛けて貰っている紅白の水引を輪にした熨斗があったわね。最中の箱はそちらを掛けて下さいますか」とおっしゃった。 
 百貨店では水引の絵が入っている掛紙が主流だが、とらやでは本物の水引の熨斗もご用意している。自分自身お客様に熨斗をお見せする時には「本物をご用意している」と少し自慢に思う時もある。「推古」は箱の形状から通常掛紙をする商品だが、「推古にも最中と同じ熨斗をお掛けする事が出来ます。一度ご覧になってからお決め下さいませ」とお見せした。
 気付くのは遅かったが、包み終えた後でも勇気を出してご提案をした結果、あの時の笑顔と同じく喜んでいただく事が出来て嬉しかった。そのままお渡ししていたら、きっと後悔していたに違いない。私が、接客のコツとして実行していること。それは、常に「お客様が私だったら」と置き換えることだ。自分がして欲しい事を純粋に行う。小さな心配りがお客様に伝わって喜んで頂けた時はとても清々しい気持ちになり、励みになる。
 K様との初めての出会いの翌日、早速売場の皆に話をした。嬉しかった気持ちを皆に知ってもらいたかったからだ。私ではなくても同じように喜んで頂きたい。毎回がふりだしではなく、続きがあるものにしたいと思った。その思いは通じ、その後売場の別の者に対して「あなたに接客してもらった事がないのに私の名前までご存知なのね。さすがね」と嬉しいお言葉を頂いたという。K様はいつもお仕事用の大きなバッグに商品を入れるので、紙袋はたたんでお渡しするように皆に話していたからだ。
 売場全員が素直に行動し、お客様に喜んでいただき、全員が嬉しさを共感できた。これからも一人でも多くのお客様に喜んで頂くことはもちろん、求められている以上の事を常に考え行動し、感動して頂ける接客を継続していきたい。

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