年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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ほっ・・ほっ・・ほっ・・のおもてなし

第11回 2007年度 受賞作品
入賞作品
作者名:香月千寿
所属企業:一般

記事(紹介文)


 「チーちゃん、すまんばってん天神町のあの和菓子屋さんに行って、いつものお饅頭ばお歳暮に贈って来ちゃんしゃい!」
 お婆ちゃんは、おん歳85才。半年前までは、1人でいそいそと街へ出かけていたのだが、転んで背骨を痛めて以来、歩行も車椅子に座ることもつらくなり外出が困難になっていた。
 「お歳暮だったら、私がデパートのカタログで頼むから、おばあちゃんのもついでに頼んであげるよ!」…… ところが、このお婆ちゃん、なかなかの頑固者。
 「いいや! いかん、いかん。デパートには無かもんが良かったい! どこでん無か、あの店の包装紙のあの饅頭やなかと、いかんと!」「ほれ、贈りたか人の名前と住所たい。あーそうそう、ポイントカードもあるけん、店員さんに見せてね。頼みますばい!」
 「ふ~っ……。」言い出したら聞かないお婆ちゃん。私は仕方なく年内山積みの仕事を前に、イライラした気持ちであわただしく年の瀬の街に出かけた。
 店に着いて注文を済ませてポイントカードを見せると……。
「あのー失礼ですが、○○様のお婆ちゃまの……」
「はい……家族の娘です」
「あぁ! やはりそうでしたか。この半年、ずっとお越しにならないので、みんなで心配しておりました。お優しくて、素敵なお婆ちゃまですね!」
(……お・お優しいだと? ス・テ・キだと?……お婆ちゃん相当ぶりっ子していたんだ……(汗))
「早速、お品をご用意させて頂きますので、こちらにお掛けになってお待ちくださいませ。」紅色の緋毛センの上にこしかけると、なんだか「ほっ・・・」とした気分になった。「お茶をどうぞ……」と丁寧に入れられた玉露のお茶に、添えられた小さな羊羹を口に含むと、気分はさらに「ほっ・・・」とした落ち着きを取り戻して行った。
 「お待たせ致しました。本日は娘さまにお越し頂き、本当にありがとうございました。これは…… 失礼かとは存じますが、お店の新商品と試食品を集めたものです。良かったらお婆ちゃまのお見舞いに……。ご試食後の感想をお電話いただたら幸いです!」と、店員さんの顔イラスト入りの名刺の裏に、お見舞いコメントまで添えてくれたのだ。(なるほど……、お婆ちゃんが、この店にこだわるはずだ!)と再認識させられた。
 その夜……、お婆ちゃんは、頂戴した試食品のお菓子を仏様にお供えして、何度も何度も名刺の裏に書かれたメッセージを、それは、それは嬉しそうに読み返していたのだった。その姿を見ていた私の心は、本日3回目の「ほっ・・・」とした気持ちに包まれていた。
 介護と仕事の両立で疲れ果てていた私は、あわただしい年の瀬に店員さん方から頂いた「ほっ・・・ほっ・・・ほっ・・・のおてなし」の真心にそっと感謝の手を合わせたのであった。

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