シェフの心遣い

第11回 2007年度 受賞作品
入賞作品
作者名:長谷川えり
所属企業:一般

記事(紹介文)


 私は生まれつきの病気が悪化して、18歳から車椅子生活を送っています。世界中の身体障害者の先輩方が基本的人権をはじめ生き抜く権利獲得に闘って下さったお蔭様で、現代日本の身体障害者である私達は、病気を「恥」と捉えられ(身内から倉座敷等に幽閉され陽の光を浴びることもなく)一生を終えねばならない時代に生きてはいません。「障害は個性」という言葉に端的に表わされるように積極的に社会へ進出することが可能になりつつあります。その顕著な例が「行きたい」と思う場所へ出掛けられることです。
 今日はその中で私が一番感激して、今も訪れているレストランについてのエピソードを紹介させていただきます。
 今から7年前のことです。年齢を重ねることで症状も重くなり、20回目の手術を終えた退院祝いに、家族とレストランへ行きました。フランス語で「隠れ家」という意味の店名のそのレストランは、お食事も美味しかった上に、シェフをはじめとしスタッフの方々の温かいお人柄が伝わってくる雰囲気のお店でした。ですから、帰り際にはお世辞抜きに「また寄らせていただきます。」と御礼を申し上げて帰宅しました。
 その数ヶ月後、私の誕生日に、あの心とお腹をも満たしてくれる幸せ感を味わいたくて、予約を入れて再び訪れました。すると「お待ち申し上げておりました。」との笑顔で迎えていただき、通していただいた個室には、車椅子1台が安定して乗る幅の手作りの木の台が用意されているではありませんか。
 「あのー、こちらの台に車椅子ごと乗せてもよろしいでしょうか。」とシェフがおっしゃいました。意味が分からないまま私は、「はい、お願い致します」と答えて、シェフに木板の台に上げてもらいました。そして気が付きました。「あっ! テーブルの上がよく見えます!」「高さはどうでしたでしょうかねぇ……。先日いらした時、テーブルが高くて、料理を目で楽しんでいただけただろうか、と気になったものですから作ってみました。」
 「えっ・・・わざわざ・・・。」という一言しか出ませんでした。「いえ、そんな、あのー、いらして頂いたお客様方に楽しんでいただきたいので。」とさり気ない。そして親切を押しつけないシェフの思いやり溢れる言葉に、私は「サービス業の原点」を見た気がします。「どのような境遇のお客様も大事にしたい」というシェフのやさしさに、私の心はわしづかみされてしまいました。
 それ以降、このレストランが私の一番のお気に入りになったことは想像できることと思います。お客が求めるものは、お店の方々からの思いやりだと実感しています。

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