一枚の葉書

第12回 2008年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)


 今のお店に異動して8ヶ月が経ちます。以前いたお店は大きな店で、ブランドの中でも中核になるお店でした。私はそこで店長でしたが、期待される成果を出す事が出来ませんでした。
 今となっては異動して良かったと思うことばかりですが、その時は小さな規模のお店に移される事がショックでした。自分の能力の無さを知られると思うと恥ずかしく、ほとんどのお客様には異動を知らせずに異動してきてしまいました。本当に薄情で恩知らずだったと思いますが、生活が落ちついたら少しずつ手紙でお知らせしようなどと思っていました。
 異動して1ヶ月位経った頃です。お店に、私宛の葉書が1枚届きました。それは前にいたお店で、よくお相手をさせて頂いたお客様からでした。その方は、我が社のホームページをチェックしている時に私の名前が違う店舗の店長欄に載っている事に気付き、私が遠くに異動した事を知ったのでした。
 葉書にはこんな事が書かれていました。
私が遠くに異動した事を知って、いてもたってもいられずペンを取った事。私のコーディネートするお洋服が本当に自分に合っていて、とても気に入っている事。それを選んでくれた私にもとても感謝している事。そんな私なら、新しいお店でもきっと沢山のファンが出来ると思う、ずっと応援しているという事……。文面から伝わる温かさに感動を抑えられず、涙を堪える事が出来ませんでした。
 実家から遠く離れた土地での独り暮らし、何もかも一からやり直すつもりで、自分を見つめ直すつもりで異動の話を受けました。けれど、その反面、心の中は不安で一杯でギリギリの状態。前のお店では何をやってもうまくいかなくて、自分に自信を無くしていました。新しい店でも、一体自分に何が出来るのか不安は拭えずにいました。
 そんな時にもらった1枚の葉書。
「私の接客で、こんなに喜んでくれた人がいたんだ!」 改めて実感すると、それが素直に嬉しくて嬉しくて何度も葉書を読み返しました。そして気持ちを込めてその方にお礼のお手紙を書きました。書きながら、色んな気持ちが交錯して、ワンワン泣きました。
 この事があって、私は気持ちがクリアになりました。活躍する場がどこであっても、自分の心さえしっかりしていれば関係ない事に気付きました。
 「このお店でも、お客様にこんな風に喜んでもらえる販売員であろう。そんなお店を作ってゆこう」
1人の販売員として、本当に初心に還る事が出来たと思います。この葉書を下さったお客様とは、今ではメールをやり取りしたり、プライベートでお付き合いが続いています。
 私自身、人間としても店長としてもまだまだ未熟で、これから成すべき事は沢山あると思います。けれど、これからどんなにベテランになっても、いつまでも忘れずにいたいと思います。人を喜ばす事ができる喜びがある。この仕事の素晴らしい事を。

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