おじさんの心意気

第12回 2008年度 受賞作品
入賞作品
作者名:兼定千恵
所属企業:㈱両口屋是清 八事店

記事(紹介文)


 このジーパンにしよう!! 楽しみにしていた旅行へ着て行くお気に入りを見つけることができた。ちょうどよい丈を計って印を付けてもらい、デパート内の仕立ててくれるお店まで足を運んだ。「いらっしゃいませ…」と、無表情な女性店員が私の方へ近づいてきた。Gパンの丈詰めをお願いしたところ、無愛想に淡々と説明された。
 「丈詰めは1050円です。出来上がりは2、3日かかりますので、3日後くらいにお受け取りにお越しください」。丁寧な言葉で、マニュアルどおりの流れだったと思うが、態度が気に障ったせいか、その説明がいくつか引っかかった。
 料金が高めで、出来上がりが2、3日と曖昧な上、遅い。料金はさておき、旅行が翌日だったため、今日中に出来ないかと聞いたら、「順番にやってますので3日かかります」とまた淡々と言われた。「わかりました。早く必要だったのでやっぱり結構です。すいません…」。
 旅行へ着て行けない…、残念な気持ちで店を後にした。帰宅途中、自宅近所に仕立ててくれる店を見つけた。〈旅行には間に合わなくても、丈詰めしないとはくことができないし、ここにお願いしよう〉。店へ入ると、「いらっしゃい!!」元気なおじさんが迎えてくれた。丈詰めをお願いしたところ、「急がないなら明日には出来ますが、急ぎならすぐやりますよ! どうしましょう?」と言われた。「明日旅行ではきたいので、今日中にお願いできますか?」「よっしゃ!すぐやるから、そこ座って待ってて」〈よかった〉。
 旅行に来て行くことができる嬉しさと、おじさんの快い対応で、待ち時間があっという間に感じた。「お待たせしました! 630円です。また急ぎだったら言ってください。すぐやってあげるから。急がない時は、順にやらせてもらったり、他の急ぎの方を優先したりするからお待たせすることもありますので、よろしくお願いします」。
 心から自然とお礼の言葉が出た。店を出た時、先ほどの店を出た時とは違うモノを感じた。明日着られるGパンが手元にあることでも、言葉遣いの違いでもなく、おじさんの対応は私の心に触れて、とても温かい気持ちになったのだ。接客にはマニュアルがある。そのマニュアルは経験を重ねれば、体が覚え自然とこなせるようになると思う。
 しかし、おじさんから感じた温かさは、マニュアルを完璧にこなすだけでは感じられない、本人の内側の心(愛情や思いやりがこもっている)があった。私も接客をしていてふと思う。無理な注文をされる方、上手く私に言いたい事を伝えられない方…。私はどれだけその人の気持ちになれるだろう。結果その方の要望にそえる事ができなかったとしても、最後には「ありがとう」と言っていただける。そんな温かい、親切なおじさんのようでありたいと。

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