出会いの可能性

第12回 2008年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)


 人と話すこととファッションが何より好きで販売員として働き始めて2ヶ月、緊張と失敗の連続で私はすっかり落ち込んでいた。
 先輩スタッフ達はあんなに楽しそうにお客様と話しているのに……と遠巻きに眺めながら、自分には販売という職種自体が向いていないのでないかと、1人で悶々としてばかりだった。上手く対応する自信がないため恐怖と不安しか感じられず、入店されたお客様へ一言声をかけることすら逃げ腰だった私に、販売を通して人と出会う喜びを教えてくださったお客様がいる。
 ある日、母子で楽しそうに洋服を選んでいるお客様がいたので、内心ドキドキしながらもお客様を試着室へご案内した。ワンピースとロングカーディガンを試着され、ワンピースのほうはすぐに気に入っていただけたのだが、カーディガンは「私は背が低いから長い丈はやっぱり似合わないですね」。
 小柄な方でもコーディネート次第ではかわいく着ていただけるし、何より色やデザインが似合っていらっしゃったのだが、うまく説明することができず、結局ワンピースだけお買い上げいただいた。お二人が帰られた後も、「あの時もう少し気の利いたアドバイスができれば……」とファッションアドバイザーの役割を果たせなかったことが申し訳なく、後悔の気持でいっぱいだった。
 ところが数日後、「やっぱりどうしても気になって」と、今度はお客様1人で再来店してくださった。先日の反省から私も、「これはもうビクビクしてる場合じゃない」と夢中になって小柄な方でもバランスよく着られるコーディネートを提案し、最後には笑顔で「お姉さんのおかげでカーディガンを諦めなくて済みました、ありがとう」のお言葉までいただけた。いつも自分がうまく言葉を続けられないことを気にして黙りがちだった私が、初めて素直にお客様の立場に立って積極的にお話できた接客だった。
 お客様が再来店という形で私にリベンジするチャンスを与えてくれたことだけでも感謝の気持ちでいっぱいだったのだが、後日、「1回行っただけで顔を覚えていてくれて嬉しかったから」と、わざわざお菓子を持って来てくださって更に感激した。
 一度も会ったことのない見ず知らずのお客様と販売員が「販売」という接点で結ばれる。そ一瞬で終わる関係かも知れないが、もしかしたら一生忘れられない体験や感動を味わうことができるかも知れない。今回のお客様との出会いで、私はこれまでとは違う緊張と期待で売場に立つことができるようになった。
 私もお客様に感動を与えられる販売員になれるように、臆せず自分にできる精一杯のおもてなしをして、お客様との出会いを楽しんでいこうと思う。

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