隣のゴリラ店長君

第01回 1997年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:洋菓子販売店勤務

記事(紹介文)

 
 私の隣はM屋、そのM屋に新しい販売員がやってきた。彼は入社二年目の新米販売員なのだが、見た目は30代後半の大工さん。色が黒く、短足胴長、絵に描いたような昔の日本人体型、まさしくゴリラ。後で知ったことだが当時24才であった。当時M屋には、このゴリラ君のお母さんと同い年くらいの女性店長と、20才の女の子、ベテランのパートさんが働いていました。この店長は仕事大好きで、休日返上で1日働き続ける。それに対しこのゴリラ君、義務を棚上げし、権利ばかり主張する。当然のようにこの2人、衝突を繰り返し、結局女性店長は、このゴリラ君入店から3ヶ月で辞職してしまった。
 「こうして自分の意志と関係なくゴリラ店長誕生となってしまった」。
いままで言いたいことを言って何も身に付けてこなかったゴリラ君、ただ戸惑うばかり。
 こうしている内に、御得意様が1人又1人と減り、当然売り上げは急降下、前年の売り上げの60%という前代未聞の事態に追い込まれてしまった。その間私のお店が着々と売り上げを伸ばしたのは言うに及びません。しかし、この頃からゴリラ君の人間への進化が始まりました。“人まね”です。標的は、私の店です。
 私の店の陳列をじっくり見ては、自分の店の陳列を直す。見ては直す。これを来る日も来る日も続けるのです。この姿に周囲の人からアドバイスが届くようになり、彼も又、それに素直に耳を傾けるようになりました。
 次のものまねは、お店の雰囲気づくり。ゴリラ君は悩むばかりに表情が固くなり、店員のMちゃんパートのIさんとのコミュニケーションが少なく、店の人間のまとまりが無くバラバラになってきていました。それに気づいた彼は、少しずつ表情を作るようになりましたが、ハッキリ言って人を和ませる事の出来る笑顔とはほど遠く、「助けて下さい。非力な僕に力を貸して下さい。」と哀願しているような笑顔でした。しかしこれが功を奏し、MちゃんIさん、半分困り顔をしながらも「ゴリラも人間も先祖は一所、仲良くやろう」と心を交わすようになり、「去年のM屋に追いつこう」という共通の目標に向かって、3人が一つになり始めました。
 そしてゴリラ君の進化の第2技は御得意様づくりでした。私が接客している間ゴリラ君はじっと耳をすまし、私と御得意様の会話を一語一語暗記して、口の中で幾度も幾度も繰り返していました。そして人の良さそうなお客様を見つけては、覚えた会話を例の笑顔を交えてはたどたどしく接客におりこんでいきました。私は半分小憎らしく想いながらも、このゴリラよくここまでやるなと半分感じ、ここまでくれば私の飼育係の役目もそろそろ終わりかなと、ゴリラ君の接客を見ながら頷きました。
 ゴリラ店長誕生から1年が経ち、今では押しも押されぬボスゴリラ誕生。今のゴリラ君は自信にみちあふれ、ドラミング(胸をたたく行動)をしながら俺についてこいと言わんばかりの勢いを持っています。

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