年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
作品ジャンルで探す
作品カテゴリーで探す
キーワードで探す
各記事には関連キーワードを設定しています。
自転車・メガネ・子供・感激…などキーワードを入力してください ※複数は(カンマ区切り)

車イスの御客様

第13回 2009年度 受賞作品
入賞作品
作者名:井上里美
所属企業:㈱新宿高野 池袋西武店

記事(紹介文)


 御歳暮ピークが最高潮の日の事です。夜の7時頃になってもお客様はどんどん来店されて、いつまで経っても落ち着く感じはありませんでした。
 私は少し疲れたなぁと思いながらも配送を申し込むためにお並びになられている方の伝票を順番に承り続けていました。そんな時、何気なく正面のステージの前を見てみると、そこも人だかりでした。そしてその中に車イスの方がいらっしゃいました。ちょっと気になりながらも、私は順々に周りにいる配送のご家族を受けていました。少し経ってから、もう一度正面のステージ前を見てみると、先ほどの車イスの方が少し不安そうな顔で周りを見渡していました。私も周りを見渡してみましたがメンバー全員が接客している状態でフリーの人がいませんでした。
 このままじゃまずい! 早くお客様の不安をやわらげなければ! と思い、私はとっさに「すぐ承りますので、少々お待ちください!」 と少し離れた場所にいたにも関わらず、声をお掛けしました。お客様は少し驚いたような表情をされましたが、少し微笑んで頷いてくださいました。たまたま、私がその時承っていたお客様の後にお並びいただいている方はおらず、このお客様の後には必ず車イスの御客様の方に行こうと、早まる気持ちを押さえながらも、今受けているお客様に対して、ミスがないようにと思いながら配送を受けました。
 そして、やっと車イスのお客様を受けることが出来ました。「大変お待たせいたしました。いらっしゃいませ」。さっきまで疲れたから重く感じていた足も、嘘のように、その時の私はお客さまの元に駆け寄っていきました。
 お客様はご自宅用の苺をお買い求めでした。お客様は「忙しいのに少しで申し訳ないですね」とお待たせした事へのご不満を一言もおっしゃらず優しい言葉を掛けて下さいました。しばらくお話をうかがっていると、やはり普段から混雑している所でお買物される時は非常に気付かれにくく、いつもその事が気になっているとの事でした。私はお買物ひとつされるのも大変な気苦労があるのだなと思いました。お客様は「だけど今日は、気付いてもらったことではなく、離れた所からでも『すぐ承ります』と声を掛けてもらえた事がすごく嬉しくて、安心できました」とおっしゃられました。
 今までも、自分の行動でお客様が嬉しいと言われた事があっても「安心できた」と言われた事は初めてでした。最後まで「本当にありがとう」と何度もおっしゃってくださいました。このお客様の笑顔を一生忘れません。
 私は販売員のやるべき事を新しく知る事が出来ました。今後は嬉しいと思っていただける接客だけではなく、信頼できる、安心できる接客を心掛けたいです。

タグ(関連キーワード)

コンセプト 審査委員長紹介 お問い合わせ 日本専門店協会サイト プライバシーポリシー
Copy right (c) Japan Specialty Store Association All Rights reserved 2009.