年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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アメリカ人のお客様

第01回 1997年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)

 
 春物のニットが、売り場に並びはじめた頃私は、いつもの様に朝の清掃を済ませ、売場の商品を整えていました。オープンと同時に一人のアメリカ人らしき女性が、御来店され店内をぐるりと1周されて、すぐお店から出ていかれました。年令は30代後半のキャリアウーマンタイプのお客様でした。
 30分位経ってから、再び御来店して下さり今度は、ニットの所で立ち止まり何かお探しの様子でした。私は、接客しようにも英会話が満足に出来ない為、ただひたすら笑顔でもてなしていました。「サイズやカラーの事なら答えて差し上げられるかしら」と、思いつつなるべくお客様の後ろの方でおたたみをしながら「何かお探しでしたら、一緒にお選び致します。」と一言、アプローチしてみました。それに対して、片言の日本語で「アメリカにいる友人に、プレゼントするニットを探しています。」と伝えて下さいました。
 その一言で私は、俄然張り切りあれやこれやと、商品をお見せしました。お客様も嬉しそうに、色々とご覧になり結局ブラウンのV衿カーディガンを、お買い上げ頂きました。プレゼントということでしたので、パッケージにブルーのリボンを付けながら、私は「お友達が、喜んで下さるといいですね。」と申し上げました。するとお客様は、「今日、このビルに買い物に来て、私に声をかけて下さったのは、貴女が初めてです。他の店も見たけれど私が外国人だからなのか、どこのお店の人も相手にしてくれなかった。私は日本語が余り上手くないので少し不安だったのです。貴女は接客がとても上手ね。話し掛けてくれて本当に嬉しかった。ありがとう」私は、当たり前のことを言っただけなのに、お礼まで言われ少々、照れ臭い気もしました。お話している中で、日本にビジネスで来ているアメリカ人と知りました。
 お客様からのその一言で、たとえ英語が話せなくても、言葉を越えた接客は出来るという大切な事を学び受けました。話すことが出来ないからといって躊躇するのではなく、別の方法で何かを伝え様とする手段を考えればいいのです。
 私の些細な一言で、こんなにお客様に喜んで頂けるという事を、その方に教えてもらった気がします。思わず、笑顔は国境を越えるとすら思ってしまいました。
 オープン時、閉店間際に御来店されるお客様は、必ず何かを探していらっしゃいます。ましてや、海外からの旅行者の方なら尚更です。今後もそういったお客様の気持ちを充分に理解しお手伝いが出来たらと思っています。

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