年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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あるお客様との思い出

第13回 2009年度 受賞作品
入賞作品
作者名:浜野美紀
所属企業:㈱ザ・クロックハウス 光が丘店

記事(紹介文)

 「チラシに出ていた時計はどれですか?」
 ある日の開店して間もない時間に、威勢の良い中年男性がお店に飛び込むように入って来られました。その時期、当店では、広告掲載は行っていなかったので、それは同じショッピングセンター内の電気屋さんで扱っている激安時計だと、すぐにわかりました。
 時計を買いにいらしているお客様を他の時計売り場にご案内するのは、寂しい気もしました。でもその時はまだ午前中ということもあり、気持ち的にも余裕がありました。それなので、広い館内をお客様が迷うことのないようにと、いつもより『少しだけ丁寧に』道案内をして差し上げることが出来ました。
 「ありがとね!」 早く行かないとセール品が売切れてしまうと言わんばかりの足取りで、お客様は去って行かれました。しかし、30分後、そのお客様が今度は奥様を連れて当店へ戻って来られました。そして私を奥様にこう紹介して下さいました。「このお姉さんがね、さっき俺に道を教えてくれたんだよ。ライバル店だろうにね。親切な人だよ」と。私は驚いて、「ありがとうございます」と、ただただ深くお辞儀をするしかありませんでした。
 ですが、更にお客様はこう仰いました。「親戚の若夫婦に時計を贈るんだ。旦那の分はあっちで買ったんだけど、若奥さんの分は、お姉さんに選んでもらおうと思ってね」と。私は更に驚いて、嬉しすぎてドキドキしました。それと同時に、せっかく戻られたお客様に満足して頂ける時計が選べるだろうか不安にもなりました。それでも、頭をフル回転させ、お客様のお好みを伺いながら、ちょうど良い1本を選ぶことが出来ました。私の選んだ時計をお客様は大変喜んで下さいました。
 ホッと一息です。そこへ更にお客様は、「ついでに、ウチのカミさんの分も買っていこうかな?」 とおっしゃると奥様の分もお買い上げになりました。驚きの連続でした。こんなこともあるんだなぁと、私は嬉しくて仕方がありませんでした。最後にはドキドキも治まり、最高の笑顔でお見送りすることが出来ました。お客様も「今度は俺の分も買いに来るよ!」と。手を振りながら楽しそうに帰って行かれました。
 私は、それまで、この状況の中でお客様は『低価格』にこだわっていると思っていました。でも、この度は違っていたのです。お客様は『私』に戻って来て下さったのです。販売員として、こんなに嬉しいことはありませんでした。今でも、そのお客様の笑顔は胸に焼きついています。
 今は、私も転勤してしまい、そのお客様にもう一度お会いすることはないかもしれませんが、また同じようなお客様にお会いすることが出来るかもしれません。その時にまた、心を込めたおもてなしが出来るように、いつも笑顔で、さわやかな接客を心がけていきたいと思っています。

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