年度別受賞作品
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シューズが教えた第一歩

第13回 2009年度 受賞作品
入賞作品
作者名:佐々木恵美子
所属企業:一般

記事(紹介文)


 インターネット広告にちなんだ職業に就いている私は、言うまでもなくインターネットに詳しい。営業職も3年目に入るわけで、そこそこの知識はあると自負している。そしてもちろん、インターネットでの買い物にも長けている。平日に忙しくて時間がないという理由も手伝って、気づけば化粧品や雑貨、書籍や音楽、身の回りのあらゆるものはブラウザの中から手に入れてきた。
 ショッピングが趣味だという友人は、「買い物袋をいっぱい持って、買った! って感じで歩く帰り道が気持ちいい」と言う。だけど私に言わせれば、袋なんてたまるだけで邪魔になるし、割安で手に入ることに比べたらそんなにたいしたことじゃない。「職業柄」を理由に私はひたすらブラウザショッピングに時間を費やすのだ。
 だけど唯一サイズを試す必要があるものだけは、ネットだけに頼るわけにも行かないと、私は街へと繰り出す。本日の目的はランニング用のスニーカー。おしゃれのための洋服と違い、来月のマラソン大会のためという、いわば「必要品」の買い物だったため、あまり気が乗らないまま店へと向かった。
 スポーツ用品店にはめったに足を踏み入れない。新商品、といわれてもどの程度で入ってくるものか見当も付かないし、人気のデザインといわれても好みじゃなかったりする。ここは店員さんに聞くしかない。ぐるりとあたりを見渡し、自分と年齢の近そうな女の人を見つけ声をかけた。「10キロくらいは走る」こと、「初心者である」ことを告げると、手際よくいくつかのシューズを手に取り、靴の底を確かめたり、手で押して弾力を見たりしてから、私に説明を始めた。
 「靴底のここに入っているものが、走っているときの足のひねりを最小限におさえてくれるものです」「ここにこれが入っているものは足に負荷をかける、トレーニング用のものなので初心者であれば違うほうがいいですね」。色や形だけではなく、用途もいろいろあるわけだ。思わず真剣に聞き入り、今度は自分の気に入った色のものをいくつか選び、説明してもらう。聞いているうちに、ああそういえば走っているとき靴が重いのがイヤだった、とか、足が蒸れるのも気になった、とか、いろいろと必要な条件が思い出されてくる。
 あれこれ吟味して、最適な1足を手にし、店員さんへ礼を言いレジへ向かう。満足な買い物だった。靴を選ぶときの、店員さんのあの目。深い知識と、仕事への誇りを併せ持っているような、確固たる安定感がそこにあった。何も知らない私でも安心して買い物ができた。ここで買うことの意味。それをちゃんと持っているのだ。インターネットではこうはいかなかった。

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