年度別受賞作品
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サプライズ

第14回 2010年度 受賞作品
入賞作品
作者名:高橋香織
所属企業:㈱新星堂 盛岡店

記事(紹介文)


 2006年秋、DVDの販売フロアで働いていた時の事です。映画『007』四〇作をまとめたアルティメットDVD-BOXが発売になりました。シリアルナンバー入りアタッシュケースに40作と特典DVDを収納した、完全限定BOXで価格は驚きの65000円!
 ある日、いつもご来店下さるけれど名前のわからない女性のお客様がその『007』の単品DVDをVOL1~3まで3枚購入されました。翌週も3枚、さらにその翌週も3枚…。ある週、何かを悩んでいる様子でコーナーに立ちつくしていらっしゃったので声をかけてみました。すると「父と母が007の大ファンで本当はアルティメットBOXを買ってあげたかったのだけど、さすがに一括では買えないので単品で順番に買ってプレゼントしていたんです」との事。棚を見ると所々売り切れていたので、順番を飛ばして3枚買うか、入荷を待つか、迷われていたのでした。「入荷したらすぐご連絡差し上げますよ」と申し上げると、「わざわざ注文するのは恥ずかしいので結構です」と順番を飛ばして3枚買われていきました。私もどちらかというと注文出来ない方なので、その方の気持ちがわかります。
 その女性は毎週木曜の夕方にいらしていたので、スタッフの泉さんと考えて、それからはご購入番号を毎回こっそり控えることにしました。次に買われる商品が売り切れそうになったら棚から商品をさげてレジで取り置き、女性がいらっしゃる時間帯に棚に戻す作戦を実行しました。
 2、3ヶ月経ち、来週で全巻揃う所まで来た時、私たちは、メーカーさんからアタッシュケースの本物の展示用見本を「好きに使って下さい」といただいていたのを思い出しました。そして、この女性が全部買い揃えた時にプレゼントしよう、という事になりました。とうとうその日がやってきました。私も泉さんも「サプライズ?!」なんて軽いノリではしゃいでいました。その女性がレジに来て最後の作品を買われた時、「ご迷惑でなければこちらをプレゼントさせていただきたいのですが…」というと、かなり驚かれて、「凄く嬉しいです」と、とても喜んで帰られました。私たちは「サプライズ成功!」と手を叩き合って、またはしゃいでしまいました。
 数日後、その女性は男性と一緒に来店され、「父です」と紹介して下さいました。お父様は、「本当にご親切な心遣い、ありがとうございました」とわざわざ箱菓子を持ってきてくださったのです。「今までいろいろな所で買物をしてきましたけど、ここまで親切にされた事も感動した事もありませんでした。それが普通だと思っていたので、本当に嬉しかったんです」と目を赤くして話され、私も思わず泣いてしまいました。後ろで泉さんも目を赤くして3人で泣き笑いになりました。
 それ以来お名前で呼び合える大切なお得意様になりました。私たちがこっそり棚に商品を揃えていたのを、実は知っていたとのこと。嬉しかったので敢えて知らないフリをしてくださっていたのでした。「アタッシュケースを用意してくれていたなんて、本当にサプライズでした」とおっしゃっていました。
 純粋にただ喜んでいただければいいと思って、軽いノリで始めたサプライズ企画。接客が人に感動を与える事があるなんて知りませんでした。その女性に教えていただいたのです。「喜んだお客様の笑顔で私たちも嬉しくなる」というかけがえのないプレゼントをいただきました。サプライズしたつもりが逆にされていたのです。どんなに忙しくても、あの時のサプライズを思い出し、感動を与えられる販売員でありたいと思います。

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