年度別受賞作品
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私にとってのサービス

第15回 2011年度 受賞作品
入賞作品
作者名:高宗一恵
所属企業:㈱虎屋 たまプラーザ東急店

記事(紹介文)


 販売員として入社以来、多くのお客様を接客して参りました。新人の頃は失敗も多く、出来るだけお客様からお叱りを受けないように、間違えないようにと余裕のない毎日でしたが、数年が経ち徐々に接客や仕事にも慣れてきました。そんなある日、「良い接客とはどんなものなのか」と気付かされる小さな出来事がありました。
 それはお客様もまばらな夕方の事です。お店の前の通路を、両手に大きな紙袋を提げた女性が通りかかりました。丁度自分の母親位の年齢の方で、買い物をしたばかりの夕食の材料や日用品と思われる物が沢山入った紙袋を重たそうに持って歩いていらっしゃいました。
「そういえば、子供の頃、母親もあんなふうに買い物して帰って来ていたな」。通りかかった女性の姿を見て、そんなことを思い出しました。「いらっしゃいませ。虎屋の羊羹はいかがでしょうか」。お決まりの私のお声掛けに、その方は当店でお買い物される気配はないものの、少しだけショーケースに視線を落として通り過ぎて行きました。
 その時です。大きな紙袋のひとつが音を立てて破けてしまったのです。野菜やお肉、洗剤のボトルなどが袋から次々とこぼれ落ちました。その様子に周囲からはちょっとした注目を浴びてしまい、女性は慌てて落ちた品物を拾い集めようとしていました。私はとっさに自分のお店の一番大きい袋を何枚か掴んで駆け寄りました。その方が自分の母親の姿に少し重なって思えたのかもしれません。
 「宜しければこの紙袋をお使い下さい」。急に駆け寄った私に女性は一瞬驚いた様子でしたが、すぐに「ありがとう、ありがとう」と落ちた食料品を私の持って行った袋に入れ始めました。また一通り拾い終わった後で、荷物の整理にお店の机をご案内すると、「こんなに良い紙袋を何枚もありがとう。袋が破けてしまってとっても恥ずかしかったけれどあなたが来てくれて助かったわ」とおしゃいました。その場は荷物を整えるお手伝いをして「どうぞお気をつけて」とお見送りしました。
 数日後、なんとあの女性が私を訪ねて店頭にお見えになったのです。「あの時、周りには他のお店が何軒もあったのに、来てくれたのはあなただけだった。本当にありがとう」とお菓子を持って来て下さいました。自分自身、そこまで大それたサービスをしたつもりはありません。自分の母親にその姿が重なって行った気遣いに対して、改めてお客様からお礼のお言葉を頂き、とても照れくさい気持ちになり、そのお客様のお気持ちに嬉しさが込み上げました。
 そこでハッと気付かされました。「良い接客」とは、親しい人や家族へちょっとした気遣いをする事と一緒なのだと。「お客様」という言葉の響きの前に萎縮してしまって一歩踏み出せなかった「サービス」という名の心遣い。それは、身近な人達にするものと同じだと言う事を。
 それ以来、店頭で接客するお客様に対しても固くなり過ぎず対応する事が出来るようになりました。お客様の立場を自分に置き換えて「自分だったらこうしてもらった方がちょっと嬉しいかな?」と考え、小さな心遣いのサービスを重ねるように心掛けています。「サービス」という果てしなく幅の広い言葉を、自分に出来る事から、また様々な角度からこれからも考えて実践して参りたいと思います。

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