年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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記念日に続く道

第15回 2011年度 受賞作品
入賞作品
作者名:丹羽亜有実
所属企業:㈱新宿高野 立川ルミネ店

記事(紹介文)


 私がそのお客様に初めてお会いしたのは、ここで働き始めて2ヶ月程たった頃でした。まだまだ緊張していて、しっかりとした接客とは決して言えなかったと思いますが、私の名前を初めて覚えて頂き、私も初めて名前と顔を覚える事の出来たお客様でした。
 その方は、いつも男の子と一緒にご来店され、その日は奥様への誕生日ケーキを予約しにご来店されました。お母さんへのケーキをお父さんと一緒に選んでいる男の子の姿はとても楽しそうでした。でも、私と話す時は、少し恥ずかしいようで、お父さんにうながされながらメッセージやリボンの色を小さな声で教えてくれました。
 その数ヵ月後、「妹が生れまして…」と、今度はお兄ちゃんになった男の子と一緒に、生まれた娘さんへのケーキを買いに来て下さいました。今日は僕が選ぶと張り切って来たんです、とお父さんから教えて頂き、「そらちゃんは女の子だからピンク!」と、私に言ってくれた男の子は、少しだけ大きくなっているような気がしました。その数ヵ月後の本人の誕生日にもご来店頂き、メロンが好きな事や、誕生日にはメロンアニバーサリーのケーキを楽しみにしていた事、今度、小学生になる事など、色々なお話をしながら笑顔いっぱいで帰られました。
 その後も、何度かご来店頂いていたのですが、私のシフトが合わずなかなかお会いする事が出来ず、しばらくたった頃、格好よくおめかしした男の子がショーケースの前に立っていました。あれ? と思い見ると胸に綺麗な造花がついていました。
「入学おめでとうございます」と、思わずショーケースの外側で声を掛けました。「ありがとうございます」。恥かしがり屋だった男の子は笑顔で私にしっかり返事をしてくれました。
 そして、今年の4月、いつものようにお父さんと歩いてくる男の子の後ろに、小さな女の子の姿が見えました。私はビックリして思わず「もしかして、そらちゃんですか?」と尋ねました。すると、「そうなんです。2歳になりました」と言われ、私は笑みがこぼれました。
 私の仕事は毎日たくさんのお客様とお会いします。そして、毎日たくさんのお客様の大切な記念日を一緒にお祝いさせて頂いています。このお客様との関係の中で、成長していく子どもたちの姿を見て、改めて記念日のお祝いがどれだけ素適な事なのか感じる事が出来ました。私とこのお客様は、ケーキ屋のお姉さんとそこのお客様です。でも、私はこの家族の一生に一度しかない記念日を通してたくさんの笑顔をもらいました。そして、その大切な記念日の思い出には、私の書いたプレートやお店のケーキがみんなの中央にあったのだと感じる事ができ、とても嬉しくなりました。
 接客は一期一会です。たった数分の接客は、その方の一生のうちの1日の大切な記念日につながっている事を忘れず、これからも、私自身が嬉しくなれるようなお客様との関係を築いていきたいです。
 この男の子がいつまでケーキを買いに来てくれるかは分かりませんが、これからも笑顔のお手伝いを一回でも多くさせて頂ければいいな…、と思っています。

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