年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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小学生の見学者

第15回 2011年度 受賞作品
入賞作品
作者名:上村順一
所属企業:㈱文明堂東京 新宿工房

記事(紹介文)


 私の職場は新宿にあります。道路に面している部分がガラス張りで、作業場から外の風景が見られるため、気晴らしにもなり、気に入っている職場です。逆に外からも中が丸見えなので、緊張するところもあります。外観は黒塗りの落ち着いた和風のイメージで、横には竹が枝垂れています。何でも社長のこだわりだそうです。
 昨年の夏の終わり頃、いつものように午後からのどら焼きを焼いていました。
 私たちも通行人や外の風景に目をやったりして作業していました。ふと気付くと小学生くらいの男の子が、1人外から中の作業を見ているのに目が止まりました。母親か友達が近くにいるのかと辺りを見渡しても誰もいなくて、その子1人で見ている様子です。
 「熱心なギャラリーがいるぞ」などと、現場のスタッフと話しながら作業をしていました。その子は、どら焼きの機械から次々と皮が焼き上がっていく様子を興味深く見ており、暫くすると堪らずなのか、無意識のうちに外扉から入って内側のウインドウの所まで来て、ガラスに手を当てて顔を擦りつけんばかりにして見始めたのです。
 「へえ~、熱心なギャラリーだなぁ」と言うと、以前にも来て見ている日があったそうです。
 興味が湧いてこちら側から手を振ってみると、気づいたのか目が合い、ニコッと笑顔になり、また真剣なまなざしで、機械からどら焼きの皮が焼ける様子を、じっと見つめていました。
 その様子が何とも言えず気に入ってしまい、作業の手を休めてその子の所に行き、「おもしろいの?」と尋ねると、「うん」と元気のいい返事で答え、こちらの方を見ようともせずに、そのままじっと食い入るように機械を見つめていました。よく見ると、その子が背伸びして見ていたので感動してしまいました。
 しばらくして焼きが終わったのだと知ると、帰ろうとしたので呼び止めました。せっかく見学してくれたのだから、焼き立てを食べてもらおうと思ったからです。いつもサンプルで並べておいてある小さい方のどら焼きを手に持ち「食べるか?」と聞くと、「うん」と言って大きい方のどら焼きを指差します。それに持ちかえて手渡すと、「ありがとう」と言いながら、嬉しそうにポケットに押し込み、お辞儀をして帰って行きました。ほんとはあんこが嫌いじゃないのかと少し不安でしたが、嬉しそうにしていたので良かったと思いました。
 その姿、仕草が何とも言えず、また私たちの仕事に興味を示してじっと見ていたことが嬉しく、無邪気に大きい方のどら焼きを欲しがった様子も可愛くて、私の方がウキウキしてしまった感があります。
 いまどきの小学生くらいの子どもたちは、ゲームとスナック菓子ばかりで、あんこや和菓子には縁遠い世代とばかり思っていました。なかなか捨てたもんじゃないな、と、その小学生にちょっぴり勇気を貰った感じがしました。

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