年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
作品ジャンルで探す
作品カテゴリーで探す
キーワードで探す
各記事には関連キーワードを設定しています。
自転車・メガネ・子供・感激…などキーワードを入力してください ※複数は(カンマ区切り)

フクジマ兄ちゃんの奮闘記

第15回 2011年度 受賞作品
入賞作品
作者名:福島貴志
所属企業:㈱シューマート 高崎飯塚店

記事(紹介文)


 「子供の足は未完成。選んであげる靴で、しっかりした丈夫な足にもなるし、足型が歪んでしまう事だってある―」。私が子供靴部門の担当になってすぐに、先輩から言われた言葉である。これまで都内で靴の販売員をしていたが、土地柄かお客様のニーズは 〝お洒落であること〟が第一。足型に合う靴ではなく、お客様のワードローブに合う靴の販売がメインであった。
 現在の会社に入社し、足の計測方法を学んだ私は、以前の会社に所属していた時よりも、接客に入った際に力んでいるのがよくわかった。足の計測が初めてということもあったが、何より先輩の言葉を重くとらえ過ぎていたのである。私の間違った靴選びで、お子様の足が正しく成長しなかったらどうしよう。そればかりが頭の中をぐるぐる回り、緊張していた。感受性の豊かな子供たちには、私がガチガチになっているのが見抜かれてしまっていて、計測の際に泣き出してしまう子や逃げるように動き回ってしまう子が多く、上手く計測できない私はさらに焦っていた。悪循環である。
 悩んでいたある日のことだった。お客様から子供の足を測って欲しいと声をかけられ、いつものように計測に入ろうとした時だった。「お兄ちゃん、名前は?」 小学校入学前の、物怖じしないハキハキした男の子だった。名札を見せ、「フクシマって名前だよ」と答えると、「フクジマ。変な名前だね」と大笑い。お母さんが注意していたが、あまりの可愛さに私も思わず吹き出してしまった。よほどフクジマという名前が気に入ったのか、計測後も私のズボンを掴んで離れようとせず、お帰りの際には「ありがとう。フクジマ兄ちゃんバイバイね」と、小さな手を一生懸命に振ってくれていた。
 小さな背中を見送りながら、私は気付かされた。正しい靴選びを。正確な計測を。それにばっかりとらわれて、お子様の足型だけしか見ていなかったのだと。もちろんそれらも大切だが、それ以前にお買い物を楽しんでもらおう。成長を見守るためにも、もう一度ご来店いただけるような接客を目指そう。成長を左右する、責任ある仕事だが、それは同時にやりがいでもあるのだ。会話を楽しんだあの男の子のように、私自身も楽しまなくては。
 私があの男の子を初めて計測した日から、もう11ヶ月が経った。2ヶ月ごと、こまめにご来店していただき、男の子も足も元気に成長中だ。足のサイズは約1㎝大きくなり、私の呼び名は「フクジマ兄ちゃん」から「フクジマちゃん」へと変わった。もう少しで、私は「福島さん」になれるかも知れない。そう思うと笑顔になれる。
 今では、計測前の子供たちの表情や会話が楽しみでならない。計測もすんなりとこなせるようになり、子供たちも私もずっと笑顔のままだ。「優しいお兄ちゃんで良かった」。「この前の靴でね、かけっこ一番になれたよ」。そんな子供たちの言葉が嬉しい。さぁ、今日も楽しんで、フクジマ兄ちゃんは足のサイズを測ります。

タグ(関連キーワード)

コンセプト 審査委員長紹介 お問い合わせ 日本専門店協会サイト プライバシーポリシー
Copy right (c) Japan Specialty Store Association All Rights reserved 2009.