年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
作品ジャンルで探す
作品カテゴリーで探す
キーワードで探す
各記事には関連キーワードを設定しています。
自転車・メガネ・子供・感激…などキーワードを入力してください ※複数は(カンマ区切り)

お子様のメガネ

第16回 2012年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:高橋春樹
所属企業:㈱板垣 安中店

記事(紹介文)


 「あの、これ歪んじゃったんですけど、直りますか?」
 メガネの販売を始めて3年。「メガネが欲しい」よりも多い言葉がこの言葉のように感じます。少し曲がってしまった程度のものから、「どうやったらこうなるの?」と聞きたくなるほど形が崩れているものまで様々です。歪んだメガネをお持ちになる方も老若男女様々ですが、特に多いのは遊んでいてボールや友達とぶつかってしまったというお子様です。月に一度は顔を見るような、常連のお子様も少なくありません。
 私が今の店に異動になって間もないうちに出合った小学生の男の子。小学生ではありますが、近視の度数は私の倍くらいあり、メガネなしで生活するのは困難です。その男の子はおとなしい性格で、いつもお母さんと一緒に来ていました。初めのうちは私と話をすることもなく、お母さんの後ろに隠れているような感じでしたが、何度も顔を合わせると、だんだんと私と話をしてくれるようになりました。「今日ね、友達とぶつかってメガネが曲がっちゃったんだ」と、男の子は私に歪んだメガネを渡します。私は少し歪んだメガネを受取り、調整します。形を整えて、綺麗にクリーニングしてから男の子にメガネを渡すと、「うん、よく見える」。そう言って笑顔でお母さんと帰っていきます。
 しかしある日、その男の子が1人でお店にやってきました。「あのね、またメガネが曲がっちゃって。今日は違うメガネ屋さんに行って直してもらったんだ。でも、まだ曲がってる気がする」。確かに男の子のメガネは斜めに掛かっていました。男の子からメガネを預かると、いつものように形を整えて、クリーニングをして、男の子に手渡しました。私はいつものように男の子の笑顔を期待しました。
 しかし、男の子は「あれっ?」と首をかしげています。よく見ると今度はさっきとは逆方向に傾いています。「ごめんね、行き過ぎちゃった」と苦笑いの私を尻目に、「たまには失敗するんだね」と言わんばかりの笑みを浮かべる男の子。再び調整し、クリーニングして渡すと、「今度は大丈夫。ありがとう」と言って愛くるしい笑顔を見せてくれました。いつもはお母さんと一緒に来る小学生の男の子が、最後に「ありがとう」と言ってくれたことに私は感動しました。
 保護者の方には怒られてしまうかもしれませんが、それ以来、私は歪んだお子様のメガネを見るといつもこう思います。
 またメガネを壊しちゃうくらい元気に遊んで欲しい。何度でも直してあげるから。

タグ(関連キーワード)

コンセプト 審査委員長紹介 お問い合わせ 日本専門店協会サイト プライバシーポリシー
Copy right (c) Japan Specialty Store Association All Rights reserved 2009.