年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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私のお客さま

第01回 1997年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)

 
 「ねえママ、もしパパじゃない人と、もう一度結婚できたとしたらどう想う?」赤いワンピースの小っちゃなお子様は突然そんなことを言い出した。
「んー、そうねー。うれしいやら、悲しいやら。」眉をひそめて、ちょっと困った表情のお母さん。
「だって、そんなことになったら、ゆみちゃんはパパじゃない人をパパって呼ばなきゃだめなのよ。それじゃ、ゆみちゃんがかわいそうでしょ。ママだってこまるなあ。」私の勤める店では、時折このような何とも微笑ましい光景を目に入れることが出来る。そんな母娘のやりとりを見る度に私は、心が温かくなってしまう。そして私は、そのお客様の毎日の生活をあれこれと勝手に想像してしまうのだ。
 先日、どうやらデートに着ていく洋服を探しにきた様子のお客様が見えた。「その日は帰りが遅くなるだろうから夜になっても寒くないような洋服が欲しい。」というお客様のご要望があった。さらに、「女の子らしいかわいい洋服がいい。」というご要望も。私は内心困っていた。どの洋服なら満足して頂けるのだろうかと。これならきっとお似合いだろう、と思われる洋服でもお客様はあまり気に入らない様子。お客様と2人あれこれと長い時間をかけてようやくお気に入りが見つかったようだ。心から満足した様子が笑顔になって表れていた。
 レジの前で紙袋を抱えたお客様が一言、「いろいろ見てくださりどうもありがとうございました。」その言葉に私は思わず照れ笑いをしてしまった。こんな時こそこの仕事をしてきてよかった、と心からそう思える。そして、心の中で「明日のデートがうまくいくといいですね。」とささやきながらお客様をお見送りした。
 私と接した時間はほんの一時でもずっと前から、そしてこれからもずっとこのお客様たちの人生は続くのだと思うと当たり前の事でも、私には特別に思える。お客様一人一人にそれぞれの人生があるのだ。あの赤いワンピースの女の子はどんな大人になるのか、あの時のお客様は楽しいデートを過ごせたかな、などと勝手にあれこれ考えてしまう。まるでテレビドラマでも見ているかのようだ。 
そして、私は今日も新たな主人公を目の前に、彼女たちの「ありがとう」を源に元気よく、最高の笑顔で、「いらっしゃいませ」。そして、さまざまな人生を勝手に思い描きながら「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」。

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