大切な瞬間

第16回　2012年度受賞作品
入賞作品
作者名：川村えみ那
所属企業：㈱コイデカメラららぽーと横浜イトーヨーカドー店

記事（紹介文）

　入社２年目、大森イトーヨーカドー店に勤務していた頃の話です。
　４０～５０代くらいの女性で、スタッフにいつも笑顔で優しく声を掛けてくださる常連のお客様がいらっしゃいました。そのお客様が、真っ青な空にひとつだけ浮かぶ、大きな雲の写真を何枚も注文されました。
　後日、それらのお写真をお渡しした時に、中にあった大伸ばしの写真を感慨深げにご覧になっていたんです。どうしたのかなと思っていると、「最近、娘が亡くなってしまって、すごく落ち込んでいたんです。だけどある時、ふと空を見上げると、目の前にこの大きな雲がひとつだけ浮かんでいて。〝あぁ、娘が私に会いに来てくれたんだって〟思って、思わず写真に撮ったのよ」と、お客様は少し涙ぐみながら話してくださいました。
　お客様のご年齢から考えて、おそらく私と年があまり変わらないくらいの娘さんだったのだと思います。そんな娘さんを亡くされたのかと思うと、話を聞いたその時は、涙を堪えるので精一杯でした。
　ただ今でも、「娘が会いに来てくれたんだと思った」とおっしゃった時の、お客様のあの笑顔を忘れられません。そして、お客様が思わず撮られた、ずっと見ていると吸い込まれそうな真っ青な空と、そこに浮かぶ大きくて力強い白く輝いた雲は、しっかりと私の目に焼きついています。
　当時のお客様の悲しみは計り知れません。そんな辛い状況にも関わらず、プリントショップの一スタッフでしかない私に、そのような話をしてくださったことを光栄に感じています。そして、お客様の大切な瞬間に少しでも触れられたことを、大変嬉しく思っております。
　お客様のお話を聞いて改めて写真を見ると、写真は時に、「心」で撮影したものの方が、「技術」や「知識」で撮ったキレイなものより心を打つことがあるんだと痛感しました。
　これからも、写真を通して人生の中にある大切な瞬間を共有できるように、お客様との会話を大切にしていきたいです。

タグ（関連キーワード）

大切時間常連お客様写真感慨娘亡く雲会い涙精一杯笑顔空悲しみ辛い心を打つ会話人生瞬間