WHAT IS 販売業 !?

第01回 1997年度 受賞作品
入賞作品
作者名:清水晴寿
所属企業:㈱新星堂

記事(紹介文)

 
 「サザンは好きですか?」 私が声をかけたそのお客様はサザンオールスターズのCDの前で立っていた50歳ぐらいのお母さんとその娘さんでした。私がパンフレットを渡すと、そのお客様はとても喜んで見始めました。そして完全コレクションを目指してCDを探していたと話されたので、リストを一緒に見ながら話も弾んで商品の注文も戴く事ができました。聞くと失礼ながらこのお歳でサザンのライブを見る為に、金沢から名古屋まで行かれるとの事です。おどろく反面、何かうらやましくも感じ、そして何より同じ気持ちを共有できるファンとの出会いが急に私が大切にしているビデオを「貸してあげよう、いや、見てもらいたい」と思うまでになっていました。そのビデオは、五年前に衛星放送で録画した私にとっての宝物で、販売していない為少し貴重なビデオでした。やはり、お客様は見た事がなく、大変喜んで下さり貸す事を約束しました。
 家ではそのビデオを探して久しぶりにそのライブを見た時、色々な事が思い出されました。その時の名古屋でのライブは、私も見に行っていて、その年の前後の時期が私にとって人生の転機の時期だったのです。転職する為に前の会社を辞めた事、病気になってしまい半年治療を続けた事、失業してどん底の時期だった事、再就職して販売の仕事に就けた事、そして結婚をして新しい生活が始まった事、そんな時期が過ぎ住みなれた名古屋から転勤で現在、金沢に住んでいる事等。あの時の自分から本当に色々な事があって今の自分がいると認識した時、何故かとても懐かしい気持ちになり、あの時名古屋球場でライブを見ている自分に「君の五年後は、こうなんだよ。」と伝えたくなりました。飲んでいたウイスキーはいつのまにか5杯目になり、テレビの中で桑田さんは優しい唄を歌ってくれました。「友達も見た事がなかったので、ダビングしたらとても喜んでくれました。ありがとう。」
 数日後、あのお客様は、そうお礼を言って私が貸したビデオテープとお菓子を持って来店し、注文していたCDを購入されていきました。「こういう喜びがあるから、この仕事はやめられないな。」とお客様におじぎをしました。
お客様からいただいたお菓子を見ながら、私は何故か5年前を思いだし、「僕は間違っていなかった。今までの僕は、確かに間違っていなかった。」とつぶやいていました。そして、ひとつの区切りをつけるかの様に、お菓子を食べ始めました。

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