第1回選評

第01回 1997年度 受賞作品
選評
作者名:エッセイスト 横森理香さん
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記事(紹介文)

 
 最優秀作品は、是非とも斉藤博さんにさしあげたい。「20年来のお客様」は素晴らしく、この方の真摯な態度とプロ意識には頭が下がる。下働きだった23年前から現在に至るまでのお客様との縁。最後、自分のすすめたカシミヤのあずま袖で「日本の着物文化の紹介に“少しお手伝い”ができ、“小さな”文化の交流ができたことに“不思議な縁”を感じます」という締めがいい。老舗テーラーの誇りや、キャリアに対するプライドも感じられ、接客販売の神髄に触れた気分だ。
 中川美幸さんの作品も捨て難い。旨い焼鳥屋の主人から自分の職場の先輩までを観察し、大切なことを教えてくれる彼らに感謝する。自分自身の仕事に対しても「形のない世界から何かを作り出していく人々、そういう世界の一役を画材販売を通して担っているのだという誇りと自負が私にはある」とよどみない。立派なプロである。先輩の「埃のついた道具で船出させるわけにはいかないからね」という台詞には涙が出た。
 川崎淳一さんの「見えない一線」は、多少表現がドラマティックすぎて照れるが、書いている内容は前者2人と同じくらいプロ根性を感じさせるものだ。盲目のお客様の接客に対して「手ごたえのない販売に私は不満足であった」のに、電車で再会したそのお客様に、深々とお辞儀をされ「お客様の心理を探ろうとした“お節介で邪悪な心”をスーッと溶かしてくれたうえ、ピッと領域線のような境を引かれて、叱って頂いたように爽やかでスッキリとしてとても嬉しかった」としめている。こんなふうに、スタッフが真摯な態度で日々精進してくれるのかと思うと、その店は本当にいい店だと思えるし買い物もしたくもなってくる。
こういった調子で、私はあとの作品も選んだ。文章は、まず読みやすいかどうかが問題だが、その中に何が書いてあるかが、もっと問題なのだ。読む人の、心の琴線に触れる部分が1ヵ所でもあれば、それはいい文章だと言える。特に今回は販売接客業のみなさんが書いたエッセイのコンテストなので、そのプロ意識や、賢明な生き方、お客様との触れ合い、ご本人たちの成長などが読み取れると、私は一介の客の立場から、非常にあたたかい、嬉しい気持ちになれた。最近こういう、「素晴らしいお店の人」が少ないから、買い物が楽しくなくなっているのだ。やはり、客にサービスすること、それを通して愛をあげることに喜びを感じられ、自分の仕事にプロ根性と誇りを持てることが、販売接客業の才能ではないだろうか。

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