年度別受賞作品
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第10回選評

第10回 2006年度 受賞作品
選評
作者名:高見マーケティング研究室主宰 名古屋学芸大学大学院教授 高見俊一氏
所属企業:

記事(紹介文)


「あったか・えつせい」が10周年を迎えました。年々関心が高まり、投稿される作品のレベルも一段と高く、安定したものになってきました。日本の専門店の接客水準は、世界に誇れるものになったと確信しています。10周年を記念して、例年よりも優秀賞を2作品ふやし4作品としました。応募作品数は、A部門が445作品、B部門が93作品、昨年より両部門とも減少しましたが、粒ぞろいの作品が揃いました。
最優秀作品は、㈱大塚家具の西田葉子さんの作品「ティータイム」に決まりました。お客様の不幸を知らずに、接客し続けたことへの反省と、途中で気づき、必死で、リカバリーをしようとリトグラフを提案してお客様の最高の笑顔を見ることができた。その事を通じて、販売の本質に触れたという作品です。対話と観察の中からお客様に心から喜んでいただける商品を提案できる力に素晴らしいものを感じました。
A部門の優秀賞は、コンスタントに優秀な作品を応募してくれる㈱新星堂と、一般からの作品になりました。㈱新星堂の石井裕之さんの作品「心の部分」は、父親から娘への誕生日プレゼントを、照れて躊躇しているお客さんの依頼に応え、手紙を書き、見事成功、喜ばれる話です。そのプロセスで、商品が売れるということの意味の多様性を表現しています。宮垣さおりさんの作品「パワーアップ」は、お客さまとの触れあい、特に心が通ったと実感し喜びを感じたことが、販売員としてのパワーアップになったという話です。両作品とも、お客様との応対の中で創造性を発揮しています。販売がクリエイティブな仕事であることを教えてくれています。
 入賞作品は6作品としました。㈱ドンク、笹部興子さんの「一期一会~パンに感謝をそえて」、㈱板垣、山崎裕行さんの「聴こえないということ」、内藤こずえさんの「私の宝物」、平川京子さんの「明日は新しい日」、㈱三省堂、関和一樹さんの「新書~新しい発見の書籍~」、の5作品(それぞれの内容は、誌面の都合で省略させていただきますが、例年のように順番に本誌に掲載されますのでお楽しみに)は、これまで受賞実績のある企業から選ばれましたが、㈱オカダヤの竹内かんなさんの作品「一人のために」が、唯一、はじめての受賞になりました。修理の際に見失った「石」を懸命に探し出し、お客様に喜ばれえる話ですが、誠心誠意の動きが、お客様にとっても販売員にとっても喜びを共有できることを教えてくれます。
 B部門、お客様部門は、昨年の不振を払拭し、応募数、質の両面から充実したものになりました。優秀賞は、川辺えり子さんの「勇気をありがとう」、買い物の時にハンディキャップをもつ人への心無い非難をする客に、適切かつ断固たる対応をした店スタッフへの感謝を記しています。入賞は2作品で、山本ユミさんの「数字の贈り物」と松坂美由紀さんの「『諦めないで済んだ』お店」です。山本さんの作品は、スーツケースの鍵の番号を忘れたお客様の依頼にこたえ、無事鍵が開き、思わぬエピソードが語られるほのぼのとした作品。松坂さんの作品は、車椅子の友人といつも一緒に買い物をする筆者が、親身になって応対する店員に出会い、友人が涙したときの感動を伝えたものです。
そして、特別賞は、学生の作品です。学校の先生の呼びかけで、多くの作品を応募してくれました。青柳美津子さんの作品は「クリスマスケーキ」。 混雑するお店でなかなか買えなかった時に、その姿に気づいて応対してくれたそして、受け取ろうとしたケーキを落としてしまった時に、新しいものに交換してくれたやさしいお姉さん(店員)に感謝したことを綴ったものです。クリスマスケーキがこのことで嫌いにならなかったと書かれています。
 「あったか・えっせい」の10年は、日本経済の不況期と一致します。そして記念すべき10年目に、誰もが不況脱却を実感するようになりました。地道な活動が一つの強力な「節」を作り上げたようです。数多くの人が、販売の仕事の中に、こんなにも「感動」があること、に気づき、気づかせてくれました。このことは日本の「専門店」業態を一段上に進化させたと思います。
 これまで寄せられた作品は、若い人材に刺激を与えています。大学の「ファッション販売論」の授業で、作品を読み、その場で感想を書いてもらうことを毎年やっています。すると、「くしゅん、くしゅん」と始まります。感動で涙ぐむからです。そして、ほとんどが、販売の素晴らしさを知ったと書き、何人かは、迷わず、販売の道に進もうと思ったとも書いてきます。
 日本の専門店は、2001年を初年度とする、導入期から、2006年には、成長期に転換する変局点を迎えました。次世代専門店時代の到来です。同時に、流通業界に「合従連衡」が始まりました。資本の論理に振り回されることなく、「お客様」にとってどうすればより満足していただけるかの視点を忘れてはなりません。そうすれば、長らく叫ばれていて、実現をみなかった「専門店の時代の到来」になることは間違いありません。

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