出会いを大切にして

第17回 2013年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  齋藤沙央里
所属企業:  ㈱山野楽器  サウンドクルー宇都宮店

記事(紹介文)


 私はサックスを音楽学校で勉強し、その経験が生かせると管楽器の担当者として楽器店に入社しました。当店は、管楽器については、楽器から小物まで品揃えは豊富なのですが、エレキギター等のロック関係が特色の店であり、接客したくても管楽器を購入されるお客様は少なく、私は、全く知識がないエレキギターやキーボードの説明で冷や汗をかいているだけの毎日でした。売り場のディスプレイを変えてみたり、楽器の特徴をわかりやすいポップにしたりと工夫してもさっぱりで、大好きな管楽器のことや楽器を演奏する楽しさをどうしたらお客様にお伝えすることができるのだろうと悩んでいました。
 そんな2月のある日、私のサックスの先生が「良いサックスを選んであげて」と高校生のお客様を紹介してくれたのです。
 来店された高校生に、各社・各製品の特徴を説明すると「A社の新製品が欲しい」とのことでした。私は、お客様の好みや演奏される音楽の傾向を伺い、新製品よりも同じメーカーの旧製品のほうが絶対に合っていると思いましたので、持っている知識の全てを使って旧製品の良さを説明し、また、私が何度も演奏し、音色を比較していただきました。お客様は納得され、「後で来ますので、このサックスを取っておいてください。」と、その日は帰られました。
 1週間後、今度はお母様と一緒に来店され、「実は、ここに来る前に他の楽器店にも行き、色々と質問をしましたが、どの店でも新製品を薦めるだけで、わざわざ旧製品の良さを説明し、音の違いを納得させてくれたのはあなただけでした」と笑顔で購入してくれました。
 それから1ヶ月後、その高校生が購入したサックスの音を聞いて、「同じものが欲しい」と別の高校生が来店されました。もう製造されていない製品だったので、全国の系列店を探し、山形店に1本だけ有ったのを取り寄せてお渡ししました。
 しばらく経って、2番目に購入されたお客様が来店され、「あのサックスを持って東京の音楽学校に入学しました。音が良いと先生や友達にうらやましがられています。探してくれて本当にありがとう」と感謝されました。
 この出来事は、管楽器を購入してくださるお客様が少なくて、寂しい思いをしていた私にとって、お客様のニーズに合った商品を選んで差し上げることが販売員としての責任である事、結果として旧製品をお薦めすることになっても、必ず喜んでいただけると大きな自信につながりました。また、この後なぜか私の高校の吹奏楽部の後輩たちが来店してくれるようになりました。自分が積極的に行動したことで、売り場の雰囲気が変わったような気がしました。
 お客様にとっては、楽器というのは決して安い買い物ではないし、また、生活の必需品でもありません。私が心を込めて説明をしても「また後で……」と言われることも少なくないのですが、せっかく来店していただき、少しでも興味を持たれたお客様との出会いを大切にし、そのお客様が、必ずいつの日か、楽器を手にされ、音楽を楽しんでくださると信じて、毎日新しいお客様との出会いを楽しみにしています。

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