夏の思い出

第17回 2013年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  森久絵麻
所属企業:  ㈱銀座マギー  荻窪店

記事(紹介文)


 一度会ったら忘れられないお客様、という方は接客の仕事をしていたら誰にでもいることと思います。私にもいます。なぜ忘れられないかというと、とてもチャーミングなお客様だからです。いつも御来店される時は、うちのお店で買っていただいた洋服で全身コーディネート、そして足もとは5㎝はあるかというほどのヒールの靴を履いていらっしゃいます。そのお客様はなんと90歳。いつもショッピングカートを押しながらお店にいらっしゃるのですが、以前に足を骨折した事が嘘なのではないかと思うほど、背筋をピンと伸ばし私と同じ速さで歩いてしまうのです。まるで私と同世代の友人と歩いてるような感覚にすらなってしまいます。
 昨年の夏、そのお客様を秋冬の展示会へ招待することになりました。会場がご自宅から遠い銀座であったので断られるかなと思いながらお誘いしたところ、「銀座は女学校時代によく行った所で友達といつもあんみつを食べていた所だから懐かしいわ。カートを押すようになってからは恥ずかしくてずっと行けなかったの。楽しみにしているわ」と言ってくださいました。
 展示会当日、とても暑い夏の日だったので申し訳なく最寄りの駅で待っていると、いつもの全身トータルコーディネート、5㎝のヒールの出で立ちで登場。遠くから笑顔で手を振って歩いてくる姿を見て私は、申し訳ない気持ちがなくなり、暑い中来てくださったお客様に対して感謝の気持ちと今日という一日をこのお客様にとって素敵な一日にしたい、心に残るようなおもてなしをしたいと思いました。
 展示会で素敵な洋服を買っていただき、その後「せっかく銀座に来たから銀座の町を歩きたい」との要望が。お客様とお店以外でどこかに行くことが今まではなかった私は、緊張とプレッシャーでいっぱいになってしまいました。そんな私の態度に気づいてか、お客様が優しく声をかけてくれ、会話を盛り上げて下さいました。私がリードしなくてはいけないのにその心遣いに感激しました。
 お買い物した後、学生の時によく行っていたあんみつ屋さんに行くことに。しかし、お店の入り口が2階にありカートを押しているお客様には入店することが難しく断念せざるを得ませんでした。そのことが私にはとても心残りでした。お客様にとって思い出に残る素敵な一日に出来なかったと。
 翌日、昨日のお礼とあんみつ屋さんに入店できなかったお詫びをするとお客様は、「そんなこといいのよ。とても楽しかったわ」と言ってくださいました、でも私にはやはり心残りがあります。
 もうすぐ夏。暑くなるにつれ昨年の思い出が蘇ってきます。今年こそはあのお客様をあんみつ屋さんへ! という気持ちも蘇り、今は銀座の町の猛勉強中です。

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