地蔵先生の言葉

第02回 1998年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:久野和博
所属企業:㈱新星堂 仙台店

記事(紹介文)

 
 高校時代、授業中に「わかりません」と答えると怒る“地蔵”というあだ名の国語の先生がいた。理由はこうだ。「わからないのではなく『知らない』と答えろ、より正確に言えば『知ろうとする努力を放棄しています』と答えるべきだ」。理解することと知識を得ることは別問題であって、理解に先行して知るということがあるらしい。
 先日、「ビル・ラズウェル関連のCDが全部欲しい」というお客様が来店した。ビル・ラズウェルは80年代に活躍したNYの名プロデューサーで、マドンナやストーンズ等と仕事をするかたわら、自らのレーベルも運営していて、関連商品だけで200枚以上はあるだろう。これを全部欲しいというわけだ。もちろん店に在庫はなく、カタログを調べても限界がある。が、今はインターネットという強力な“資料室”があるではないか。さっそく彼のページにアクセスし、これをすべてダウンロードしてプリントアウトすると、実に50ページ近い資料になった。これをお客様にお渡しして選んでいただき発注し、これまで100枚近くお買い上げいただいばかりか、2週間に1度は来店して他の商品も一緒に買っていただいている。
 「CD屋でこんなに親切丁寧にしていただいたのは初めてだ。また来ます」と言っていただいた時は本当にうれしかった。最初に「わからない」と言っていたら、このお客様は再来店しただろうか? いやそれ以上に、お客様は自分の欲しいと思うCDを手に入れることができただろうか? 私のちょっとした「知ろうとする努力(インターネットに努力は必要)」で、彼の音楽鑑賞の趣味が少しでも充実したものになったと思うと、この上ない喜びを感じる。
 CD屋に来店するお客様は、必ず何か自分の欲しい音を求めてやってくる。それはまさに十人十色、「昨日ラジオで聞いたのだが、だれが歌っているのかわからない」「昔レコード出ていたが、CDであるのかな?」「何か、静かで落ち着ける音楽が聴きたい」など、すべてのお客様に満足していただくことは可能だろうか?「すみません、わかりません」と答えても決して接客に落ち度はないはずだが、そこを一歩踏みとどまって「ちょっとわからないのですが、時間をいただければ調べてみます」といったん断って自分のできる範囲で情報をかき集める。それで結局は調べ切れなくても、きっとお客様にCD屋としての熱意は伝わるだろう。お客様が欲するもの、つまり心のすき間をどれだけ私たちは埋めてあげることができるのか、日々そのことだけを考えて私は売場に立っている。
 お客様一人一人の心を知ろうとする努力、これこそ今の新星堂社員全員に求められていることではないかと私は思っている。当時は理解できなかった高校時代の恩師の言葉が、こんな形で自分の中に残っているとは。さすが国語の先生、言うことに含蓄がある。

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