お客様の関所になる

第17回 2013年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  露木絵理
所属企業:  ㈱赤坂柿山  町田小田急店

記事(紹介文)


 「お客様の関所になる」という目標ができたのは、1人のお客様との出会いがきっかけでした。
 私の初めての配属先で出会ったそのお客様は、毎週木曜日に来店されます。「○○様」と呼ぶと、「僕は木曜のおじいちゃんですよ。そんなにかしこまらなくていいよ」とおしゃっていました。なのでこの作文でも、あえてそう呼びたいと思います。
 木曜のおじいちゃんは、最初の頃、私のことを「僕の孫娘」と呼んで下さいました。その頃まだ入社して1年たらず、まだ全てにおいてぎこちない私を「笑顔がいいね」と誉めて下さったり、「頑張って」と励まして下さったことがすごく嬉しかったのを今でも覚えています。
 段々とおじいちゃんに会うのが楽しみになり、通路の向こうに姿が見えるとお店の前でお迎えすることも多くなったある日、「露木さんは僕の関所だね。」と言われました。その場では深く考えなかったのですが、後になって「関所って『通らなくちゃいけない場所』ってことかな。私はそういう販売員なのかな。」と心配になりました。その後も変わらず「孫娘に会いに来たよ」と言って来店して下さいましたが、私の頭の中にはずっと、関所、という言葉に対する疑問が残っていました。でも、そんなモヤモヤした思いはある日、おじいちゃんのひと言で晴れたのです。
 いつも通り他愛もない話をした後、おじいちゃんは去り際に「その笑顔を見ないと帰れないね。本当に関所みたいだ」と言ったのです。思わず、「関所って、そういう意味だったんですか?」と確認してしまいました。おじいちゃんはニッコリ笑って「もちろん」と言ってお帰りになりました。その時は「なんだ! そういうことか!」と安心したとともに、お客様からそんな風に思って頂けている販売員になれたことが何よりも嬉しかったです。
 次の週もその次の週も、そして私がそのお店に出勤する最後の日も、おじいちゃんは来て下さいました。特に最後の日はお別れをするためにわざわざ用事を抜けて会いに来て下さったそうです。本当はいつも誉めて下さっていた笑顔でいたかったのですが、嬉しさと寂しさで若干泣きそうな顔になりながら、今までの感謝の気持ちを伝え、お別れしました。
 あれから9ヶ月、私は今、町田小田急店に勤務しています。「お姉さんはニコニコしてていいね」と誉めて頂くことはあっても、「露木さんに会いに来たよ」というお客様は残念ながらまだいません。でもいつか、また誰かの「笑顔の関所」になれる日を目指して、私は今日も店頭に立っています。

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