
- 第20回 2016年度受賞作品一覧
- 第19回 2015年度受賞作品一覧
- 第18回 2014年度受賞作品一覧
- 第17回 2013年度受賞作品一覧
- 第16回 2012年度受賞作品一覧
- 第15回 2011年度受賞作品一覧
- 第14回 2010年度受賞作品一覧
- 第13回 2009年度受賞作品一覧
- 第12回 2008年度受賞作品一覧
- 第11回 2007年度受賞作品一覧
- 第10回 2006年度受賞作品一覧
- 第09回 2005年度受賞作品一覧
- 第08回 2004年度受賞作品一覧
- 第07回 2003年度受賞作品一覧
- 第06回 2002年度受賞作品一覧
- 第05回 2001年度受賞作品一覧
- 第04回 2000年度受賞作品一覧
- 第03回 1999年度受賞作品一覧
- 第02回 1998年度受賞作品一覧
- 第01回 1997年度受賞作品一覧
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。



各記事には関連キーワードを設定しています。
自転車・メガネ・子供・感激…などキーワードを入力してください ※複数は(カンマ区切り)
自転車・メガネ・子供・感激…などキーワードを入力してください ※複数は(カンマ区切り)
お茶の心をもう一服
第17回 2013年度 受賞作品
入賞作品
作者名: 加川真美
所属企業: 一般
入賞作品
作者名: 加川真美
所属企業: 一般
記事(紹介文)
いつも行くお茶屋さんのおばちゃんは、「まあおすわりやす」と言って椅子を勧めてくれる。「ちょっとおまちやっしゃ」と言いながら、一番上等の煎茶を入れてくれる。おばちゃんの入れてくれる煎茶の味は特別で、とてもまろやか。
小さな煎茶椀を飲み干すと「もう一煎いかがどす」と言いながら、さらについでくれる。
「最近おじちゃん見いひんけど、どないしてはる。」おしゃべり好きで、お茶を入れながら、いつまでも帰してくれないおじいちゃんだった。いつも一服のおいしさと、お茶を飲みながらの会話を否が応でも楽しませてくれた。
だから、このお茶屋さんにくる時は、いつも時間にゆとりのあるときだ。お茶と共に流れるゆったりした時間を味わうために。代々受け継いでおじちゃんとおばちゃんがやっている。こぢんまりとした店舗。当たり前のように振る舞われる、極上のお茶と穏やかな時間。お茶を入れてくれるおばちゃんの背後には、年代物と思われる、お茶の木箱が積まれている。
「おじちゃんなぁ、腰痛めてから、長いこと店先に座ってんのが辛いゆうてなぁ。最近は奥にいてはるわ」「元気にしてはんの」「元気なことは元気やで」「それなら良かった」「今日は、知り合いに送ってあげるのに、ちょっとええ煎茶欲しいねん」「ほなこれからかねぇ、特上やのうても、今年のお茶はできがええから、おいしいえ」決して、高いものから勧めようとはしない。こちらの懐ぐあいも分かっているのだ。
「あっ抹茶ラスクって新しく作ったん」「近所のパン屋さんと相談してな、作ってみたら結構あうねん。バターしみこませたフランスパンの生地とちょっと甘もうしたお抹茶が。食べてみよし」と、試食を勧めてくれる。不思議と抹茶とバターの溶けた感じが、お煎茶にもあう。
そうやってお茶をいただいていると、店先の方で、「抹茶ソフト下さい」という中学生の修学旅行生らしい顔がのぞく。「2人で1つだけどいい?」修学旅行生の懐ぐわいも分かっているおばちゃんは、「じゃあ、コーン2つで小さいのつくってあげよか」と返事する。
「本当にいいんですか」「えぇよ。おいしいから2人で食べよし」。ゆったりゆったり時間が流れる。三煎目を入れてもらいながら、「上から2番目のお茶にしようかな」「そらよろしいわ」「この抹茶ラスクもつけて」「お茶菓子付いてたら、送らはった先も、喜びはりますやろ」「ほな包んで」。
ここでどれだけお茶を買っただろう。ここでどれだけゆったりとした会話をしただろう。
この店はお茶だけを売っている訳ではない。お茶を飲んだときの、ほっこりとした気持ちごと売っている。
最近、何度か中年の男性が、店の奥と表を行き来するのを見かけた。おじちゃんとおばちゃんの息子かな。この店がずっと続けばいいな。ここには私にとっての大切なお茶の世界が詰まっている。だって、お茶を楽しむときの心構えも一緒に売ってくれるのだから。