年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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宝物は無限大

第18回 2014年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  浅田郁乃
所属企業: ㈱虎 屋

記事(紹介文)

〝青空に桜舞う日のバースデー〟
この俳句は、あるお客様へプレゼントしたものです。
 私の所属している「ご注文承りセンター」は、いわゆる通信販売の部署です。相手の様子がわからない電話での接客が苦手で、7年経った今でも緊張の連続です。カタログをお持ちでないお客様に対し、言葉だけで全てを説明する難しさや、満足してご利用いただけたかという不安をいつも感じていました。
 そんなネガティブ思考の私を、G様がご指名下さるようになったのは、3年ほど前のことです。ご注文の利用明細を郵送する際、お礼の挨拶文を書いた一筆箋を同封したことがきっかけでした。
 「あの一筆箋、いい色合いの花柄だったわね。私もかわいいものが好きなのよ」と、たいへん喜んでくださいました。ご高齢で呼吸器の具合が悪く、滅多に外出できないG様とは短い会話しかできませんが、年賀状や手紙のやりとりでお互いの近況を伝えあっていました。
 昨年の立春を過ぎた頃、G様からご注文がありました。お気に入りにされている雛まつり限定パッケージの羊羹をご希望でした。少し会話をして電話を切る間際、声をかけてくださいました。
 「浅田さん、今日は少し元気がなかったけれど風邪かしら。気をつけてね」
 一瞬、どきりとしました。その日は小さなミスを連発してしまい、落ち込んでいたのです。暗い雰囲気を出さないように普段より明るく振舞っていたのに、見抜かれてしまうなんて…。私は更に落ち込みました。と同時に、正直に話したくなり手紙をしたためました。3月の誕生日を祝う俳句を添えて…。
 数日後、G様からお電話がありました。
 「素敵な俳句、本当にありがとう。大切にするわね。手紙読んだわよ。話してくれてありがとう。私、車椅子の生活でいろんな人に助けてもらっているでしょ。会ったことのない人にもね。浅田さんに会ってみたいと思うけど、どんな顔をしているのかしらと考えることが私の楽しみになっているのよ。うまくいかないことがあってもお互い頑張りましょうね」
 少し息苦しそうに、でもしっかりと優しく話してくださいました。
 G様は見えないことをストレスではなく、楽しんでいらっしゃる…。心の霧が一気に晴れたかのようでした。お互いの顔を知らなくても心が繋がれば信頼関係が生まれることを、自ら経験して知ることができたのです。プレゼントしたつもりが、逆にプレゼントを貰ってしまうなんて…。
 G様の言葉はかけがえのない宝物になりました。見えないからこそお客様との会話を大切にしよう、と思うようになり、感謝の気持ちは無限に満ち溢れてくることを実感しました。
 それ以来、通信販売をあたたかみがありたくさんの宝物を得られる接客業と思うようになり、自信を持って向き合えるようになりました。それを教えてくださったG様へ、来年は短歌を贈ろうかな、と思いを巡らせている今日この頃です。

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