年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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思いは伝わる

第18回 2014年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  若松真奈美
所属企業: 田中興産㈱

記事(紹介文)


 入社して、数か月が経ったある日の事だった。お店の目の前で、ずっとワンピースを眺めている女性が立っていた。
 「どうぞ、中ほどまでご覧になって下さいね」
 そうお声かけした私に、あまりにも真剣にワンピースを見ていらしたのか、少し驚いた様子だった。端から一つひとつワンピースを手に取って、何かを確認しては戻すことを何度も繰り返すお客様に、お声かけをしてみたが特に反応がない。まだ接客に慣れていなかった私は、正直苦手だなと思ってしまった。
 少し離れて様子を見ようと他の作業をしていると、
 「お姉さん。娘の退院祝いにワンピースを買いに来たの」と声をかけられ、振り返ると複雑な表情をした先ほどの女性が立っていた。
 「せっかく、私のために声をかけてくれたのにごめんなさいね。こういう場所慣れてなくて…」
 反応がないだけで、苦手だな、と勝手に思ってしまった自分が恥ずかしくなった。でも、お祝い事で嬉しいはずなのになぜこの様な表情をしているのだろうと。私は不思議で仕方なかった。
 お話をうかがうと、数カ月前に事故で足に大怪我をしてしまい、もうすぐ退院を控えているとのこと。いろいろなお店を見たけれど、なかなか気に入るワンピースがなくて困っていたとのことだった。販売員として間もない私は、直接お会いできないお客様の洋服を選ぶことが出来るのか、不安な気持ちでいっぱいになった。
 好きな色やデザインは? どんな体型なのか? お顔立ちは? どこから聞けばいいのだろうか。きっと私は難しい顔をしていたと思う。
 「足の傷痕がね…」
 そう小さな声で呟いた顔を見て、複雑な表情をしていた理由が直ぐに解った。傷痕を見せたくない。女性なら、誰しもが考えることだと思う。
 販売員として、一人の女性として、もう一度好きな洋服を着て、喜ぶ姿が見たい! 今まで、売れればいいと思っていた私の考えは、その時から変わった。
 商品説明は最低限に、プレゼントを贈る側と貰う側の気持ちを考え、選んでいただいたワンピースは、今までお嬢様が着たことがないという、色鮮やかな花柄ワンピース。気持ちを新たに過ごして欲しいというお母様の思いに、心が温かくなった。お見送りの際、
 「絶対に喜んでくれるわ!」
 と自信満々の顔を見て、最初に感じた不安はなくなっていた。
 それから数日後、綺麗な女性の方が来店された。あの時選んだワンピースを着て…。
 「皆、素敵なワンピースね、凄く似合っている、と言ってくれたの!」「足の傷痕なんて、誰も見向きもしなかったわ」と喜んでいる姿を見て、お母様の気持ちはきちんと伝わったと嬉しくて涙が出そうになった。
 「お母さんと一緒に選んでくれて、本当にありがとう。嬉しかった!」
 こんなに素敵な笑顔を見ることができる仕事が私は大好きだ。

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