年度別受賞作品
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握手のおじいさん

第18回 2014年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  松井 蛍
所属企業: ㈱ドンク

記事(紹介文)


 4月になり、金沢大和店へ異動してきた私。慣れないレジに四苦八苦しながらも接客をしていたある日のこと、一人のおじいさんに出会いました。
 「いらっしゃいませ。○○円のお買い上げでございます。ドンクのシールはお集めでしょうか?」
 こちらが何を言っても何も言葉を発しないおじいさん。普通なら、ぶっきらぼうな方だなあと不快に思ったかもしれません。でも、その方に対してはそんな感情が一切出てきませんでした。なぜなら、そのおじいさんは、始終満面の笑みを私に向けていてくれたからです。
 そして、私が驚いたのはその後でした。商品をお渡しした時、おじいさんはサッと手を差し出し、握手を求めてこられたのです。驚きと戸惑いのなか、握手を交わして帰られると、隣のレジにいたパートさんが、あのおじいさんはほぼ毎日いらっしゃる常連様で、お会計後に必ず握手を求めてこられることを教えてくれました。その時は、不思議なおじいさんだなと思ったぐらいでしたが、後に意外な事実を知ることとなりました。
 ある日、休憩が終わって店へと向かっていると、あのおじいさんがお菓子売場でお買い物をしていました。そして、いつものように、満面の笑みで握手をして帰られました。お菓子売場の方に、「ドンクでもいつも握手をして帰られるんですよ。どこのお店でもなんですね」と言うと、「あの方ね、昔からよく来てくださる面白い方なんだけど、病気をされて喋べれなくなられてねえ。もう歳だから今さら手話覚えたりもしんどいみたいで…。ありがとうって言う代わりに、握手して帰られるのよ」と教えてくれました。
 おじいさんは、言葉がなくても私たちに気持ちの良い笑顔を向け、握手という手段を使ってしっかり心に「ありがとう」を伝えてくださっているのです。
 私たちは話すことが出来るのだから、お客様に感謝を伝えること、好印象を持ってもらうことは、このおじいさんよりはるかにたやすいはず。スタッフは皆、お客様へありがとうの気持ちを伝えられているだろうか。心から笑顔で接客できているだろうか。お客様が私たちに感謝するのではなく、私たちがご来店いただいたお客様に感謝すべきなのに、私たちはその心を持てているのだろうか。深く考えさせられた出来事でした。
 感謝の気持ち、「ありがとう」はたとえ言葉がなくても伝わるのです。とびきりの笑顔でおもてなしさせていただきたい。言葉だけでなく、態度からも感じていただける接客をしていきたいと思いました。
 握手おじいさん、いつもご来店ありがとうございます!

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