年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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大切な1本

第19回 2015年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  脇 剛志
所属企業: ㈱伊東屋

記事(紹介文)


 普段と変わらない接客をしていた時のことです。一人の男性のお客様がご来店されました。
万年筆の修理をお願いしたいとのことで、早速その万年筆を拝見しました。万年筆はモンブランのもので、定番とも言えるモデルです。本体のいたるところに接合のあとがあったり、テープで固定していたりと、かなり年季の入っているような状態でした。
「見ての通りこんな状態なんだけど、この先も長く使っていきたいので直すことはできませんかね・・・。」
と話されたので、
「問題ありません。このモデルは今でも生産されているので、修理に必要な部品は全て持っているはずです。これくらいの金額と期間を頂ければ対応できます」
と返しました。
「本当に大丈夫ですか。 色々自分で勝手に直しているんだけれど・・・」
「大丈夫です。たまにこのようにご自身で修理される方はいらっしゃいますよ」
何かと心配されているご様子でしたので、お話を聞くうちにお客様がその理由を話して下さいました。
「これ、父親の形見なんです。昔、大阪に住んでいたのですが、その時に阪神大震災に被災してしまって・・・。瓦礫になってしまった自分の家から出てきたのがこの万年筆なんです。父親が大切に使っていたものなので、バラバラな状態からなんとか使えるように自分で直しました。このままじゃ限界もありそうで・・・。なんとかこれからも使えるようにしたいんです。」
これほどまでに思いのこもった万年筆に出会ったのは初めてのような気がしました。とても胸が熱くなったのを覚えています。
 「本当に大丈夫ですか・・・」
お客様がやはり少し不安そうに尋ねられたので、
「必ず直ります。お任せ下さい」と、自分でもはっきりと力を込めて答えました。あとはいつも通りの方法で手続きを進めました。今回はお父様の形見ということもあり、必要以上の部品の交換はせず、少しでもその形見のものを残すようにお願いをして修理を行いました。
 後日、修理が完了した旨をご連絡してご来店いただきました。完全な状態で戻ってきた万年筆をご覧になって、「本当に直った・・・。ありがとうございます。これでまた長く使えそうです。」と話されました。
 その後、同じ現場にあったモンブランのシャープペンシルも見せて下さいました。それもバラバラの状態からご自身で修復して使えるようにしたとのこと。かなり古いモデルだったためにこちらの修理はできないだろうということを伝えました。
「そうだよね。でも、ありがとう。」とおっしゃってお店を後にされました。
 万年筆は書くだけでなく、その人の様々な想いがこもる道具です。だからこそ少しでも長く、自分のそばに置いておきたいと思わせます。それを少しでもお手伝いできれば嬉しい限りです。


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