年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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言葉のちから

第19回 2015年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  田村和加
所属企業: 田中興産㈱

記事(紹介文)


 今日も外国人多いなぁ・・・。休憩中、そう思いながら、私はモールの長い通路を歩いていた。
 アジア系の観光客が目立つなか、一人だけ大きなバッグパックにケミカルデニム姿の金髪の欧米人が、モール内の雑貨屋、靴屋などを出入りする様子が目に入った。
 休憩が終わり店に戻ると、先ほどの外国人が入店してきた。接客につこうか、どうしようか・・・。
私は少し戸惑った。
一着のワンピースをご覧になっている。心を決めて、つたない英語で話しかけてみた。
「何かお探しですか」
「いや、別に・・・」
と無表情で冷たい感じの返事だったので、少し心が折れてしまう。見た目は「エイリアン」に出ているシガニー・ウィーバーといった感じ。クールな雰囲気の人だった。
 その後も店内を一通り見ていたが、私は少し距離を置いていた。すると、最初に見ていたワンピースと別の物を手に取って体に合わせている。もう一度気を取り直しお声掛けしてみた。
「ご試着いかがですか」
少し間があった後、着てみるとのこと。表情はやはりクールだった。フィッテイィングルームに入り、もうそろそろという時間になってもなかなか出てこない。思いきって声をかけると、ゆっくりカーテンが開いた。
初めの印象とは全く違うちょっと照れた表情で、
「私には小さいかしら・・・」
などとおっしゃり、どこかはにかんでいる。
驚いた私は、
「少しタイトですが、柄はお似合いですよ」
とたどたどしい英語で伝えた。彼女は鏡の前で角度を変えながらチェックしている。その時、私は気がついた。お客様は少し甘目で柄も華やかなものを好んでいる。外国のお客様ということに気を取られ、好みやニーズを捉えることが希薄だったのだ。
女性らしいシルエットのものを着ると、表情も変わり、見違えるほどだ。こうなりたい、と思っていたけれど、どこか抵抗があって言い出しにくかったのかもしれない。
 言葉足らずの英語で、また違う一着をおすすめして、ご試着していただいた。結果は・・・大成功! 彼女はひと言、「パーフェクト!」と親指を立てOKサイン。そのワンピースと最初のワンピースをお買いあげaだくことになった。
ニュージーランドからの観光客であること、日本の蒸し暑さは辛いことなど、レジカウンターでいろいろ話をしてくださり、私との距離感も少し縮まった気がした。
 店頭までお見送りしようとしたその時、突然真剣にスマホをタップし始めた。「これ見て!」と画面を見せてくれる。何とそれは日本語変換アプリを使ったお礼の文だった。
「あなたはとても親切にしてくれました。ありがとう。素敵な時間が過ごせました」
 顔を見上げると満面の笑み。私は安堵感と嬉しさで胸がいっぱいになった。お客様に喜んでいただける接客がしたい。その気持ちは、国や言語が違っても伝わるのだと思う。これこそが、この仕事で得られる私の喜び・やりがいなのだ。
「言葉のパワー」は素晴らしい。先輩、上司、家族、そしてお客様。これからも感謝しながら「心」で人と接していきたい。

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