年度別受賞作品
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仕事を極めた立派な手のひら

第19回 2015年度 受賞作品
選評
作者名:  エッセイスト 斉藤由香さん
所属企業:

記事(紹介文)


 昨年、初めて「あったか・えっせい」の審査に携わらせて頂き、表彰式でいろいろな会社の皆様とお話しさせて頂きました。日頃、デパートやパン屋さんや靴屋さんで何気なく商品を購入していますが、接客という仕事の大変さをお聞きして頭の下がる思いでした。「お客様から厳しい言葉を言われて少し対人恐怖症みたいになってしまったことがあります」ということなども含めて、接客業の難しさや奥深さをいろいろと伺いました。
 今年も候補作を拝読しましたが、力作ばかりで優秀賞をどれにするか本当に悩みました。私の審査基準は、筆者が接客しているシーンがありありと目に浮かぶ文章力のあること、そして読む人の心をほっこりさせるエピソードをポイントに選びました。
 最優秀賞『手のひら』は、毎日、お弁当を作ってくれる妻に感謝の気持ちを伝えるためのプレゼントを買いたいとデパートにいらした時の話です。店員さんから勧められたふわふわのショールを買うことに決めても一切手に取ろうとしなかった。というのも一年中、魚を扱っている手はガサガサで荒れているのです。その手を見た作者の驚きと感動が見事に伝わってきます。「仕事を極めた立派な手のひらでした」とあり、謎解きのようなストーリー展開の最後に、「私の手はお客様にどう見られているのか。長い間、販売の仕事に携わってきたことに誇れる手なのか」と結んでいます。これは作者だけでなく、この作品を読む人にも自問自答させます。金沢の雪の日に購入したストールの藤色も鮮やかで、映画のワンシーンのようです。
 優秀賞『お客様との出会い』は、冒頭の「頑張れ私、頑張れ私」という言葉で一気に作品に引き込まれます。異動して初めてのお店、初めてのスタッフ、初めての商品という不安はどんな職業でもどんな地位の人でもあります。靴擦れのクレーム対応を見事に乗り切った様子を読んで、読者に「私も明日から頑張ろう!」と思わせるモチベーションを与えてくれる作品です。
 優秀賞の『みんなで作る〝おもてなし〟』は、中国人の家族がいらして店内がイライラした雰囲気になった様子が非常にリアルに描かれています。訪日客が急増している昨今、外国人の方への苦手な英語で必死に対応されている作品が多かったのも今年の特徴です。
 他にも入賞作品『厨房食にできる接客』では、日頃、直接お客様と対面することがなくても、抹茶をたてる時の濃い、薄い、熱い、ぬるいという大切さが具体的に描かれており、本物の接客とは何かを考えさせられます。
『ノンフィクション』は、お客様の古いギターを修繕したエピソード。楽器店は楽器を売ったり、メンテナンスするだけでなく、お客様の思い出や夢を支えるすばらしい仕事だということを読者に伝えています。時計店やメガネ店などで働く方々の作品も同様に商品への深い思いや感動が書かれていて、プライドを持って接客業をされているプロの方々ならではの作品でした。
『優しい香り』もアロマやハーブなどを売る接客の作品ですが、小さなお子さんを抱いた瞬間のミルクのような優しい香りが読者にも伝わって来ます。日頃、お客様から「これはどんな香りですか?」と質問されている、香りを専門にされている人ならでは作品でした。
 原稿を書くというのは本当に大変です。日頃、お客様に本気で対峙していないと400字二枚は埋められない。お客様からのクレームがあったり、辛いことも多いと聞きましたが、逆にお客様が喜んで下さり、「有難う」と言われる喜びをダイレクトに実感できるのも接客業の醍醐味だと思います。皆様の益々ご活躍をお祈り致します。

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