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第20回 2016年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:  加瀬澤 侑
所属企業: ㈱玉 屋

記事(紹介文)


 自宅から近いハートダンス清水店に勤務していた時の話です。勤めて間もない頃、車椅子に乗られたご婦人のお客様が来店されました。まだ接客に慣れていない私は、店長に背中を押されてその方の所へどきどきしながら向かいました。少しかがむようにして目線の高さを合わせ、「お客様、何かお探しの物はございますか」と声を掛けてみました。
 すると、「イ ヤ リ ン グ」と、とぎれとぎれの言葉が返ってきました。一音一音に独特の間合いがあり、言語に障害のある方だったのです。私が次のお声掛けに困っていると、お客様の方がこの様な場面に慣れている様子で、にこにこ顔でゆっくりと話しかけてくれました。その笑顔で私の緊張はほぐれ、お客様と同じように、ゆっくり、はっきりした口調で返事をし、少しずつですが会話に慣れてお客様が求めている商品をご案内することができました。
 それまで障害のある方と接する機会はほとんどなく、上手く言葉を出せない方と関わったのはこの時が初めてでした。その後も時々このお客様は来店され、その都度私が接客させていただくうちにお客様の要望が楽に聞き取れるようになっていきました。
 私が勤務していた清水店は、第2東名のサービスエリア内の店舗です。一般道からも入ることができるので、近郊にお住まいのお客様もいらっしゃいます。この車椅子のお客様も市内の方だと、接客中の会話で知ることができました。
 私の母はケアマネージャーという仕事をしています。それまでは仕事についてあまり詳しく聞いたことがありませんでしたが、その車椅子のお客様をきっかけに母にいろいろな話を聞くようになりました。ケアマネージャーとは、高齢者の方が介護サービスを利用したい時に相談を受け付け、サービスのご利用に繋げるという仕事です。日頃から身体障害や認知症のある方と関わっている母に、車椅子に乗り言語障害のある方との会話がスムーズになったことを話しました。母もそういった方々とすぐに打ち解けられているのか尋ねると、意外な答えが返ってきました。
「身体に障害を持っている人は、その人その人で障害の軽度や重度の違いがあるものなの。たとえば言語に障害がある方の中には、全く言葉にならない人、ゆっくりなら話せる人、言いたい言葉とは全く関係のない言葉が出てしまう人など、一人ひとりに特徴があるから、それぞれの言葉を理解するには時間がかかるわ。私は同じ障害を持った人という認識じゃなくて、一人ひとり個性の違う大切なお客様として接しているよ」と話してくれました。
 たった一人の障害のあるお客様と意思疎通ができるようになったことで、言語障害のある全ての方に対して同じように接客ができる。母の言葉は、そんな私の考えがズレていることに気付かせてくれました。
 それからしばらく経ったある日、母からこんな話を聞かされました。「私が今日訪ねたお客様の時計は、清水のサービスエリアのお店で買ったんだって。『時々 そのお店に 行くけど いつも いる お姉さんが 若い いい子! そういえば あなたと なまえ 同じ! 同じ!』と私を指差して言ったのよ」と。私が接客したお客様は母のお客様でもあったのです。私を褒めてくれていたことがとても嬉しく、今までこの仕事を頑張ってきて良かったと思えた瞬間でした。
 全く知らないところで繋がる不思議……。今日接客したお客様とも深い縁があるかもしれません。一人ひとりのお客様を大切に、縁を繋いでいけるよう仕事をしていきたい。お客様が違えばその方その方に合わせた接客があり、接客するスタッフが変わることでお店に対する印象も違ってくる。
 私はとても大切なことに気づくことができました。「また、来てみたいな!」「また来よう!」と思っていただける接客、どんなお客様にも一人ひとりに合った接客ができるように経験を積んでいきたいと思いました。この毎日の出会いが決して一見とは限らないのだから……。

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