加藤様とジャッキー

第20回 2016年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  大楽 涼
所属企業: ㈱ザ・クロックハウス

記事(紹介文)


 2年前から常連さんが来店されるようになった。その常連さんの名前は加藤様という。加藤様は若い頃から目が不自由で盲導犬のジャッキーと共に行動していた。
私との最初の出会いは、盲人時計の購入だった。静かにおすわりしているジャッキーは当時13才。優しい目で主人の顔を見る表情を今も覚えている。
 ある日、電池交換に来られた際、ジャッキーは余命1年と聞かされた。
「生きるものには、死はあるから仕方ない」と加藤様は言う。ジャッキーは加藤様の言葉がわかるのか悲しそうな顔を見せた。私はどんな顔をしていいのかわからなくなってしまった。
 そして先日、加藤様は家族の方と来店された。そこにジャッキーはいなかった。ジャッキーは14才の寿命で亡くなった。加藤様は、もうジャッキーと一緒には来店されない。
電池を交換しようとした時、バンドから1本毛が落ちた。それは白くて細く短いジャッキーの毛だった。涙で前が見えない。ジャッキーは死んでもまだ、加藤様のそばにいる。私はその毛を加藤様に渡した。加藤様は泣きながら、「ジャッキー……ジャッキー……」と呼んでいた。
 いつもジャッキーは加藤様の隣にいるのであろう。そして天国から見守ってくれているであろう。私はそんなことを思いながら今日も売場に立つ。人と犬のキズナ。こんなにも愛を感じるキズナ。
ある日、私に1通の手紙が来た。加藤様からだ。数週間前から入院しているとのこと。「毛を見つけてくれてありがとう」。加藤様の優しい言葉に私はまた涙を流してしまった。
 こちらからもひとこと言わせてください。
「加藤様、ジャッキー、ありがとうございました。いつか、またのご来店をお待ちしております」
 出会いがあり、別れがある。別れは悲しいものだがつきものである。また今日も出会いを見つけに「いらしゃいませ」。

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