年度別受賞作品
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婚約指輪は二度宝物になる

第20回 2016年度 受賞作品
入賞作品
作者名:  山崎 いづみ
所属企業: 一般

記事(紹介文)

 「これが一番の人気商品ですよ」
このフレーズは他者との協調を重んじる日本の消費者にはよく効く売り文句なのかもしれない。それを証明するように、どのお店にも「人気商品」と大きく書かれたポップがある。
確かに人気のある商品は、その人気に裏付けられる高品質さ・デザイン性の高さなどがあることが多い。しかし、そのフレーズが的はずれなときもある。
 10年前、夫にプロポーズされ、婚約指輪を一緒に買いに、とある宝石店に行ったときのことである。通常のダイヤモンドに淡いピンク色のダイヤモンドが寄り添う可愛らしい婚約指輪に目が止まった。「素敵だね」と会話していると、そのお店の店員さんが、「お値段もお手頃ですし、これが一番の人気商品ですよ」と接客してくれた。
 幸せの絶頂の中、人生に一度の婚約指輪が人気商品で多くの人と被るなんてあり得ない。ましてや、婚約指輪に「お手頃」ほど合わない売り文句はないと思った。私の幸せいっぱいでウキウキしていた気持ちが一気に盛り下がった。
 店員さんには会釈してすぐにお店を出て、別の店舗に入った。そのお店で婚約指輪を探していることを店員さんに伝えると、「大切な婚約者さまにふさわしい特別なダイヤモンドをご紹介致します」と、品質の良いダイヤモンドを多く紹介してもらえた。私たちの気持ちをよくわかった接客に感激し、彼は当時としては珍しい給料3ヶ月分のダイヤモンドを選んでくれた。
 婚約指輪を通して、私は彼にとって特別な存在であると実感し、とても幸せな気持ちになった。婚約指輪は私の宝物になった。
 それから10年後の今、2人の子どもに恵まれ、毎日は大騒ぎだ。当時のときめきはすっかり色褪せてしまった。存在すら忘れていた婚約指輪を偶然見つけ、当時のラブラブだった頃のことを思い出した。 「このダイヤモンドを勧めてくれた店員さんは商売上手やなー。うまいこと言って、うちらを乗せて高額な婚約指輪を買わせたんやから。むしろお得でいちばんの人気だと勧めてくれた店員さんの方が良心的で誠実だったのかも」
 男女の愛は家族の愛に形を変えてしまったが、その愛は久しぶりにつけた婚約指輪のダイヤモンドの輝きのようにこれからも色褪せないだろう。この指輪は再び私の宝物になった。胸の奥のこそばゆさに微笑み、今日の夕飯は夫の好きな餃子でも作ろうと思う。
 忘れていた大切なことを思い出させてくれたあのときの商売上手な店員さんにはやっぱり感謝しよう。

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