今日も素敵に

第03回 1999年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:宝飾品販売店勤務

記事(紹介文)

 
 販売業に就いて5年半の間に出会ったお客様から、心をこめて接客する過程で思いがけず幸福感や励ましや感動という副産物を何度となく与えていただきました。何気ないひと言にも、その方の日頃の心がけの一端がふとこぼれ落ちて、こちらの心をはっとさせる、そんな出会いの思い出があります。
 初老のご婦人がピアスをご覧になっていました。どなたかへのプレゼントをお探しかと思っていましたところ、71歳とおっしゃるその方は、「冥土のみやげにピアスの穴を開けたばかりなの」とはにかむのでした。「サンゴとルビーはお守りになるっていうけど、赤いから私には派手すぎるかしら」と迷っていらっしゃいましたが、結局、ルビーとサンゴのシンプルで小さなピアスをひとつずつお買い上げくださいました。ご主人はもうすでに彼の岸へ行かれてしまわれたそうで、「あの世で、ピアスをつけて逢いに行ったらびっくりすることでしょうね」とご主人の驚いた顔を想像したらしく、クスっと笑われました。
 お客様カードのアンケートに記入していただき最後に、ダイレクトメールをお出ししてもよろしいかお尋ねすると、「お願いね。私、カタログや案内を見るの大好き。素敵な物に出会えるかもしれないでしょう」とのお返事でした。
 一人で買い物に出るのがお好きだそうです。しかも電車やバスでのんびりと・・・。毎日を楽しく生きる術を心得ている方にお会いでき、私まで心がうきうきしてきました。若いときは若さだけで華やいでいますが、年を重ねると、意識して心を華やぐようにすることも大事なのだとふと思いました。その頃の私は五十路を迎え、年を重ねていくことに何となく不安を覚えていたのです。
 「幸せはいつも自分の心が決める(相田みつを)」。本当に、そういうことなのですね。このお客様に、時々ダイレクトメールをお出しするのですが、その度に心の中で〈今日も素敵に輝いていますか〉と話しかけながら、私も輝かなくちゃと自分自身を励ましています。

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