母の様な店員さん

第03回 1999年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:一般

記事(紹介文)

 
 数年前、私は初めての、お産を迎える準備をしていました。毎日デパートに通いながら、「これは必要なのかな」「これは何個要るのだろう」と見て歩いていました。休日ともなると、妊婦さんたちがお母さんと思われる人やだんなさんと思われる人と仲良く買い物をしている姿を横目に、私はひとりで買い物をしていました。主人は仕事が忙しく、あまり休めません。それに男性なので出産の準備などわかりません。私は母親もいないうえに、20歳そこそこで子供を産む友人は当時あまりいませんでした。
 そんなとき、マタ二ティー売り場の店員さんの1人が、私に声をかけてくれました。年は45~50歳ぐらいでしょうか。「準備はどれくらい進みましたか?」。毎日売り場を見て回っていた私に気づいていてくれたそうです。私は、まだそろえていないことや、どれがどれだけ必要なのかわからないことなどを素直に話しました。するとその店員さんは、出産前はこの商品が、赤ちゃんの準備はこの商品がと、安くて丈夫でかわいらしいものを探してくれて説明もしてくれました。そして「今日はこれぐらいにしておいたほうがいいですよ、体が疲れますからね」と言って、私の体を気づかってくれました。「いつでもいらしてくださいね。私にわかることなら喜んで教えさせてくださいね」。
 その日からその売り場へ行くのがとても楽しみになりました。あの店員さんに声をかけてもらったことがとてもうれしかったのです。それからも店員さんは、必要な商品を一緒に探してくれたり、使い方の説明までもしてくれて、私は準備万端でゆったりとした気持ちで出産を迎えることができました。お母さんのような頼もしさと一生懸命な姿で応対してくれた店員さん。無事に赤ちゃんを出産できたことは、あなたのやさしさがあったからだと思っています。
 それから3ヶ月後、店員さんのいる売り場に行ってみると、私と赤ちゃんの姿を見つけてくれた店員さんは、「おめでとうございます。よかったわね」ととても喜んでくれました。
 今までのお礼を言って帰ろうとすると、「ちょっと待ってて」と言い、小さな包みを私に差し出しました。「ほんの気持ちです。受け取ってくださいね。いつ来ても大丈夫なように準備しておいたのよ。赤ちゃんの無事とあなたの無事を」。家に帰って包みを開けると、小さな靴下が……。とてもかわいらしくて、思わず涙があふれました。
 あのときいただいた靴下は今でも大切にしてあります。きっと今でもどこかのお店で、頼もしいお話をしてお客さんを安心させてあげているのでしょうね。本当にいろいろとありがとうございました。あのときの子供は今、元気に幼稚園に通っているんですよ。どこかのお店でまたお会いできることを願っています。

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