クレーム同時大量発生

第04回 2000年度 受賞作品
入賞作品
作者名:青木良之
所属企業:㈱コイデカメラ 久喜店

記事(紹介文)

 
 それが突然起こったのは忘れもしない平成9年11月14日の事でした。 そのとき私は休日で、雑多な用事を済ませた後、家で妻と一緒にくつろいでいました。
 夕方近く、辺りもほんのり薄暗くなってそろそろ一杯始めようかと思ったとき、電話が鳴り響きました。社員のK君からでした。第一声、「てんちょー! 助けて下さーい!」。マジで半泣き状態だったのでこれはヤバイと直感し、ことのてんまつを詳しく聞きました。興奮ぎみに話す内容は、女性定時社員のUさんが現像機に間違えてプリンターの調液を入れてしまったのだというのです。しかもその後に何本ものフィルムを流してしまい、でき上りのネガが変色しているのでおかしいと思い、そこで初めて気がついたらしいのです。
 私は血の気が引くのを感じながらすぐさまワイシャツに着替え、ネクタイもそこそこにブレザーを引っつかんで車に飛び乗りました。店に着いて内容を把握したところ、結局九名のお客様、合計21本ものフィルムがダメになった事がわかりました。お写真の中身はすべて大切な物ばかりですが、中には結婚式や学校の授業での実験結果を撮影したものなどもあり、結局、後日ラボで手を尽くした焼き直しを一軒一軒お届けに上がるなどの対応をしました。
 しかしご自宅へのうかがっても、かたくなに拒否されるお客様がいらっしゃいました。「来るな!」と。それもそのはず、この方のフィルムは何と11本もダメにしてしまったのです。しかもお子様のこの1年のまとまった成長記録で、家族旅行や海水浴、運動会など楽しい思い出の数々が、変色したネガからうっすらと見え隠れしています。
 それはもう筆舌に尽くせぬ程のお怒りでした。当然です。私は本当に取り返しのつかない大変なことをしてしまったと、申し訳ない気持ちで心の底からおわびいたしました。その後、焼直ししたプリントを何とか受け取って頂きましたが、気に病んで仕方ありませんでした。それから数日後、そのお客様が現像を出しにひょっこりまた来店してくださったのです。何と嬉しかった事か。その時おしゃってくださった言葉が、今でも忘れられません。
 「あなたが誠心誠意いろいろ手を尽くして、本気で謝ってくれたのがわかったから、あれ以上は怒る気持ちがなくなった。これからもこの店を利用するからよろしく頼む」
 ジンワリ涙があふれてきました。その一言でどれだけ心が救われたことか。そして、この仕事をしていて本当に良かったと思えたことか。今までも多少のことはありましたが、今回ほどそれを痛感した事はありませんでした。
 私達はお客様をお相手しているのだから、最終的には人間同志、心の問題なのだ、と改めて教えていただいたできごとでした。

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